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2024-04-17

「もっともっと暗い日々」(4)

米空軍の若者がパレスチナのジェノサイドの共犯者ではいられないと抗議の焼身自殺をしたことで、アメリカ内の意見が二分化されました。イスラエルによる更なる爆撃と飢餓で死者数増加が危機的レベルです。そんな中で、国連パレスチナ難民救済事業機関への資金拠出を停止していた国で、再開する国が増えています。ところが、日本政府はジェノサイド支援を続けるかのように、資金拠出を停止したまま、ジェノサイドを止めさせる努力は一切しません。

ジェノサイドの共犯者でいられないとアメリカ政府に抗議して焼身自殺した米空軍の若者

 2024年2月25日にワシントンDCのイスラエル大使館前で、25歳のアメリカ空軍の現役メンバー、アーロン・ブッシュネル(Aaron Bushnell)が抗議の焼身自殺をしました。それを自分のフェイスブックに動画ストリーミングサイトTwitchをリンクして、生配信で世界に訴えたのです。空軍の制服姿の青年が大使館に向かって歩きながら、自分が何者かを明かして、以下のように続けました。とても沈着冷静な話ぶりです。

私はもうジェノサイドの共犯者ではいられません。これから極端な抗議行動を行いますが、パレスチナで人々が植民者たちの手によってされていることに比べたら、これは決して極端ではありません。これは我々の支配者層が普通だと決めたことです。

 彼が世界に見てもらいたいと生配信した抗議の姿をTwitchはすぐに削除しましたが、Democracy Now!が彼の遺志に従って、放映しています(注1)。彼の言葉と共に見ることが、彼の思いに敬意を表す姿勢だと思います。火をつけた後、ブッシュネルは数回「パレスチナに自由を」と叫んで崩れ落ちました。フェイスブックには以下のように書いています。

私たちの多くは、もし奴隷制度の時代に生きていたら、あるいは、南部の隔離政策時(Jim Crow South)、あるいはアパルトヘイトの時代に生きていたら、自分は何をしただろうと自問するでしょう。もし自分の国がジェノサイドを犯していたら、自分はどうするだろう?答えは、今、ここでしています。

焼身自殺している人に、銃を向け続けるシークレット・サービス

 Democracy Now!のグッドマン(Amy Goodman)が指摘しているように、駆けつけたシークレット・サービスの警護官の一人が発砲姿勢で燃えている青年に銃を突きつけたままです。もう1人が消火器で必死に消火しようとしているのに、まるで青年を銃殺しようとしているかのような様子がずっと続いています。消火している警護官はその同僚に向かって「銃はいらない、必要なのは消火器だ」と叫びましたが、発砲姿勢の警護官は自分の義務は国民を殺すことだと言わんばかりで、反政府・反戦などのデモ隊を危険視する国家の姿を体現しているのだと思わされました。同じ対応はメディアの側にも見られるようです。グッドマンは以下のように指摘しています。

 今現在[2月28日]、メディアでは[焼身自殺者について]話したくないという動きがある。それは『ニューヨーク・タイムズ』のような新聞から始まり、アーロン・ブッシュネルが「パレスチナに自由を」と言ったことさえ伝えなかった。その他のメディアも同様だ。しかし、時間が経つにつれて、何が起こったか話し始めた。しかし、彼が精神病だとか、このようなことを奨励したくないとか議論している。一方で、アリ・アブニマ(Ali Abunimah: 1971-:パレスチナ系アメリカ人ジャーナリスト)のような人はアーロンの信じられない勇気について話している。

焼身自殺は絶望の非暴力的抗議

 調べてみると、本当に様々な意見表明がされています。驚いたのはリベラルなメディアだと思っていた『ワシントン・ポスト』がコラムニストによる「焼身自殺は我々が称賛すべき政治的抗議の行為ではない」(注2)と全面否定する記事を掲載しています。しかも、その筆者がインド系アメリカ人であることは考えさせられます。

 いろいろ読んだ中で感銘を受けた記事がありますので、抄訳します。ロシア系アメリカ人ジャーナリストによる「アーロン・ブッシュネルの政治的絶望の行為」(注3)と題された記事です。

 焼身自殺は政治的抗議の新しい形ではないが、普通ではない。この2,3年、プーチンのロシアでは焼身自殺が抗議の形として再び現れてきた。アメリカ人にとって焼身自殺は何を意味するのだろう?ヴェトナム戦争以来、アメリカ人で、気候変動の問題に社会の注意を惹きつけるためにこの形の自殺をした人がいる。

 ブッシュネルのフェイスブックは彼がガザの戦争を追っていたことを示している。大統領選を注視していた。2人の老人[バイデン81歳、トランプ77歳]は、ブッシュネルが今日の世界で最も重要な課題だと思っていること:ガザにおけるパレスチナ人の虐殺について、その姿勢はほとんど変わりはないようだ。ブッシュネルは遺書を残し、貯金は「パレスチナの子供救済基金」(Palestinian Children’s Relief Fund)に寄付した。

暴走する国家を止める法律はない

 彼は多分カリフォルニアの連邦裁判所の裁判を見ていたかもしれない。これはバイデン政権のイスラエルのガザ攻撃への支援を継続しないよう、止めようと、子どもの権利擁護パレスチナ(Defense for Children International-Palestine)が提訴した裁判だ。政府が軍事支援を提供するのを、たとえその支援がジェノサイドに使われていると証明できても、市民にはアメリカ政府を止める法的手段はないとアメリカ政府が主張しているのを彼は多分見ただろう。2,3日後にその判事が法律は全く何もできないと言った。連邦裁判所の判事でさえ、無力を感じていたのだ。

 多分ブッシュネルは国際司法裁判所で南アフリカのイスラエル提訴の訴訟を見たか、読んだかしたのだろう。別の国際司法裁判の件では、裁判所はイスラエルにガザと西岸の占領を終わらせるよう命令してはいけない。これがブッシュネルが命をかけて守ると誓約した政府だった。
 

道徳心を失ったアメリカ国家を焼身自殺によって目覚めさせられるかもしれない

 ブッシュネルが焼身自殺の準備を周到にしていたことがわかる。メディアに連絡し、当日の彼の動きはリハーサルをしていたことがわかる。彼は自分の抗議が道徳的支援が必要な国に身を落としてしまった国を目覚めさせられるかもしれないと夢見ていたかもしれない。

 ダライ・ラマは、長い間焼身自殺の習慣を止めさせろという圧力を受けていたが、2013年に焼身自殺は非暴力[の抗議]の形だと呼んだ。非暴力を無抵抗(passivity)と混同してはいけない。抗議の1形式として、非暴力は暴力を暴露する行動だ。焼身自殺は絶望の非暴力行動である。

ジェノサイドを非難した焼身自殺への反応か、イスラエルが食料配給を待つ市民を攻撃

 ブッシュネルの焼身自殺へのイスラエルの反応は、4日後の2月29日に食料支援を待っている群衆に発砲し、104人を殺したことです。「国連の専門家がガザを飢餓に追いやったイスラエルを非難している時に食料支援を待っていたパレスチナ人を104人殺した」(注4)と題したDemocracy Now!のインタビューで、食糧確保の権利に関する国連特別報告者マイケル・ファクリ(Michael Fakhri, オレゴン大学法科教授)は以下のように言っています。

 パレスチナ人が最後の手段として動物飼料やサボテンの葉などを空腹を満たすために食べているという報道が増える時、そして農業の崩壊が差し迫っていると専門家が警告している時に起こった。パレスチナ領土に届く食糧支援は2月に先月に比べ50%も下がった。人口全部、220万人がこれほど速く、これほど完全に飢えさせられているのは見たことがない。人々の健康は急速に低下している。今本当に心配なのは、子どもたちが脱水症状、栄養不足、飢餓で死んでいるという報告を聞き始めていることだ。子どもたちがこんなに速く栄養不足に追いやられているのを見たことがない。

 イスラエル軍は食料支援のトラックがどこにいるか把握しているのに、爆撃する。この戦争の前でも、イスラエルはガザに入る食料を17年間封鎖でほとんど支配していた。我々が尋ねなければならないのは:どうやってイスラエルは220万人をこんなに速く、完全に飢餓状態にできたのか?イスラエルは17年封鎖で漁師が漁をすることを非常に困難にし、人々を飢餓寸前に追いやっていた。戦争前にガザの人口の50%はすでに食料不安に陥っていた。80%は人道支援に頼らざるを得なかった。

人道支援を休戦交渉の切り札に使うイスラエル

さらにマイケル・ファクリはイスラエルの狡猾な企みを指摘しています。

 イスラエルが国際司法裁判所に従わないどころか、人道支援を交渉の切り札(bargaining chip)に使っていることも付け加える。2月27日にイスラエルとハマスは40日間休戦の交渉を始めた。イスラエルが交渉で提示したことが重要だ。彼らはガザのパレスチナ人に人道支援を提供した。イスラエルは代わりにハマスの譲歩を求めているのだ。人道支援トラックを1日に500台、20万のテント、6万のキャラバン、病院とパン屋の復旧、入るのに必要な道具など。イスラエルが提示しているのは、国際人道法で義務付けられている必要最小限のものだ。これは国際司法裁判所に従うという法的義務、人道法に従うという法的義務のものだ。その必要最小限のものをイスラエルは抑えてきた。そして今、休戦交渉でイスラエルがそれを交渉の切り札として使っている。この道義的義務、法的義務をまるで政治的選択肢として使っている。

戦争犯罪は個人の責任を問うが、ジェノサイドは国家の責任を問う

 これは疑いもなく戦争犯罪だ。戦争犯罪で興味深いことは、戦争犯罪の責任を問えるのは個人だけだということだ。だから、我々国連の独立した人権専門家12人がこれはジェノサイドと言っているわけだ。だから国際司法裁判所がジェノサイドの可能性があると言っているわけだ。ジェノサイドの意味が、パレスチナ人が民族を理由に民族全体を標的にされているということだ。ジェノサイドという意味は、イスラエル国家が有罪だということ、飢餓の問題もそれを交渉の切り札として使うこともイスラエル国家全体が有罪だということだ。ジェノサイドの救済法は、単に個人を数年間収監することではなく、パレスチナ人全体の自己決定権を認めることだ。だから、これをジェノサイドとして理解する重要性がある。

イスラエル植民者たちの暴力のエスカレーション

 この戦争が始まるやいなや、イスラエル人入植者たちがパレスチナ人、特にパレスチナの農民に暴力を振るうようになり、西岸でイスラエル軍のパレスチナ人に対する暴力が増加した。また、オリーブの収穫のシーズンに農民が収穫できなかった。これはいくつかの意味がある。近年で最大の暴力が西岸で見られた。オリーブの木とオリーブの収穫を攻撃するのは栄養の点で、食料の点で、そしてその土地で将来も収穫できる点で問題だが、オリーブの木というのはパレスチナ人のアイデンティティの核なのだ。パレスチナ人の土地との結びつき、伝統、先祖、未来との関係の中心にあるものだ。だからオリーブを攻撃し、傷つけ、消滅させることは、パレスチナ人の核の部分を攻撃することだ。

 この指摘は3月7日付のBBCの報道「イスラエルは西岸植民地に3,400軒の新たな家の建設を認めた」(注5)によって証明され、さらに3月9日の記事「西岸の暴力:私の子どもの未来は殺されることだった」(注6)で西岸のパレスチナの人々が日夜晒されている危険な状態を語っています。国際法違反を犯して入植したイスラエル人植民者とイスラエル軍が、先祖伝来の土地に住んでいるパレスチナ人住民を襲うので、外に出ることも危険な日常生活の中で、どうしても必要な時に子どもを乗せて車で買い物に出た家族がイスラエル軍の砲撃にあい、10歳の少年が殺されたストーリーです。

 イスラエル軍はラファへの地上侵攻こそ始めていませんが、連日空爆で大量殺人と病院や人家の破壊を継続しています。パレスチナ外務省は3月19日に、イスラエルが「国際世論の反応を避けるために、ラファへの攻撃を知らせないで始めた」と非難の声明を出しました(注7)

ジェノサイドを非難した焼身自殺への反応か、ガザに食料を投下し始めたアメリカ

 3月2日から目立ち始めたのが、アメリカによる食品の空中投下のジェスチャーです。3月2日に3機の米空軍輸送機で38,000のインスタント食品を投下し、人道支援の専門家たちから非難されています。ユダヤ系アメリカ人政治評論家のフィリス・ベニス(Phyllis Bennis: 1951-)は空中投下が人命を救うどころか、殺していると厳しく指摘しています。3月8日に空中落下された物資が市民の上に落ち、5人死亡、10人負傷したことに加えて、この食糧が「即席加工食品」で、準備には清潔な水と燃料が必要なのに、包囲され爆撃が続くガザにはないことを指摘しています。最悪なことを以下のように指摘しています。

230万人は16年間、酷く包囲され、十分な食料も清潔な水もないままでいただけでなく、過去数ヶ月は人口全体、特に子どもが飢餓に苦しんでいる。国連世界食糧計画はこの状況を「世界で最悪の児童栄養失調レベル」だと言っている。これらの子どもの多くは、生存のためには特別な治療用栄養補助食品が必要だ。(中略)パンを数週間も食べていない子どもが空から落ちてくる見慣れない食べ物をガツガツ食べたら、すぐに体調を壊すか、もっと恐ろしい結果になる。栄養失調の子どもと老人にとって、体に危険なものを食べるのは危険だから、空中落下は答えではない。(中略)空中落下計画は人命を救うことが目的ではなく、オックスファム・アメリカ(Oxfam America:貧困と不正を根絶するための支援活動組織)の高官が言うように「ガザで進行中の残虐行為とファミンのリスクに貢献している政策を立てたアメリカ高官の自責の念を緩めるのが目的」だ。(注8)

 『ニューヨーク・タイムズ』は食品投下について報道した後、以下のように述べています。「イスラエル政府にフラストレーションを感じているにもかかわらず、バイデン氏はイスラエルの軍事攻撃を減らす方法としてイスラエルに[軍事]支援を制限すると脅さなかった」(注9)。パレスチナの女性は「アメリカに出ていってもらいたい。アメリカから何もいらない。合衆国からは何もいらない。彼らは嘘をつき、私たちに対して共謀している」(注10)と言っています。

バイデン政権はガザ市民への心配を主張しながら、イスラエルへの武器提供をこっそりと承認

 これは3月7日付のDemocracy Now!の見出しです(注11)。元国務省職員Josh Paulにインタビューし、解説していますので要約します。彼は国務省で兵器売買を担当し、イスラエルのガザ攻撃の最中に政権が武器輸出を増加したことに抗議して辞職しました。

  • 10月7日のイスラエルの攻撃開始以来、バイデン政権が議会を経ずに緊急時に使用できる権限を使って認められた「対外有償軍事援助」(foreign military sales: FMS)は100以上だが、そのうち2件しか公開されていない。透明性がないのが問題。
  • 対外援助支援法では、アメリカが資金を出している人道支援を制限している国[=イスラエル]への軍事支援を提供するのは違法だ。国家安全保障補佐官のジャック・サリバンも問題だと言った。アメリカの法律にも国際法にも従っていないのに、バイデン政権の立ち位置は変わらない。
  • イスラエルとウクライナに武器を提供する手続きとプロセスは違う。ウクライナは大統領が引き出す権限のもとでの承認を必要とし、それは期限切れで、追加財源無しにはウクライナに武器を供給できない。一方、イスラエルは「対外有償軍事支援」と直接プロモーション販売システム(direct promotional sales system)を通して武器を調達することができる。それに我々が知らない別のルートを通して更に100の売買だって可能だ。その上、イスラエルは10年コミットメントをアメリカから得ているから、アメリカは年間数十億ドル提供し続ける。だからウクライナと違って、イスラエルは補助財政なしでも武器を受け取り続けることができる。

焼身自殺への日本外務省の回答は、ジェノサイド支持?

 ブッシュネルの焼身自殺による抗議がニュースになった3日後の2月28日に日本の外務副大臣がイスラエル外相を表敬訪問したというニュースを外務省がホームページとフェイスブックに掲載しました。「辻外務副大臣によるカッツ・イスラエル外務大臣表敬訪問」(注12)の右側の写真(会談の様子)に、大きく目立つスクリーンの下で双方が会談している様子が映されています。そのスクリーンを拡大すると、” WE WON’T STOP UNTIL THEY’RE ALL BACK”(我々は彼ら[人質]が全員戻ってくるまで[攻撃を]やめない)という、ジェノサイドを続けるという主張が映されています。

 この写真の別の物が批判の対象になりました(注13)。会談のテーブルで各人の前にスイカが置かれています。それがパレスチナ国旗のシンボルで、それをイスラエル政府が「パレスチナを一緒に食べよう」と、パレスチナの人々に対する侮辱であることはもちろん、日本政府をバカにするように提案したと受け取れます。すでに食べた形跡もあるので、外務省は”It’s delicious”とでも言いながらパレスチナのシンボルと知りながら食べたと推測できます。スイカがパレスチナ国旗のシンボルであり、その歴史について雑誌『タイム』が解説しています(注14)

 スイカがパレスチナ国旗のシンボルとして登場したのは、1967年にイスラエルが西岸とガザを占領し、東エルサレムを併合した「6日間戦争」の後でした。イスラエル政府がガザと西岸でパレスチナ国旗を掲示することは犯罪だと公表すると、パレスチナ人はスイカを使い始めました。スイカを切り開くと、パレスチナ国旗の色—赤、黒、白、緑が現れるからです。1980年になると、イスラエルはこれらの色を使った展覧会を閉鎖し、政府高官は「たとえスイカを描いても没収する」と言いました。ガザ地区では若者が薄切りのスイカを持っているだけで逮捕されました。2023年1月にはイスラエル政府はパレスチナ国旗を没収する権限を警察に与え、6月には大学を含めた組織がパレスチナ国旗を掲揚することを禁じる法律を作りました。

 ですから、2024年2月28日に日本外務省の一行にスイカのスライスを提供し、それを世界に誇示したのは意図的でしょう。この時期にイスラエル政府を表敬訪問して、スイカ=パレスチナを食べる外務省+日本政府のメッセージもはっきりしています。

UNRWAへの支援再開をした国々VS停止し続ける日本政府

この1週間後の3月7日に上川外務大臣は日本パレスチナ友好議員連盟の要請「UNRWAへの支援再開」に対し、「予断をもって答えることはできない」(注15)と回答しましたから、飢餓によるジェノサイド支持を続けると表明したに等しいです。同時期に資金拠出停止を取りやめると発表したカナダ政府(3月8日)やオーストラリア政府(3月15日)と好対照です(注16)。カナダは資金を停止した16カ国の1国でしたが、UNRWAスタッフの数人がハマスの攻撃に関わったという疑いについての調査が進んでいることと、パレスチナ市民が支援を緊急に必要としている時にこの国連機関を崩壊させてはならないというので決定しました。スウェーデンやEUも再開しています。

日本政府が停止し続けるのはアメリカ追従なのか、イスラエル支援なのか、その両方なのかわかりませんが、UNRWAの長官が日本に再開を訴えるために3月27日に来日するそうですから(注17)、230万人の命を預かっているとも言える長官の貴重な時間を割く要請を外務省がしたとしたら、まるで挨拶に来いというヤクザのような対応です。イスラエル政府高官と一緒にスイカを食べる行為といい、日本外務省は不気味な動きをしています。

国連安全保障理事会の議長国日本はイスラエルのジェノサイドを止める気はない?

 2024年3月に日本は国連安全保障理事会の議長国となり、外務省の山崎和之氏が議長として3月1日に記者会見(注18)しました。議長が発表した3月のプログラムには停戦もジェノサイド・飢餓を止める案も出されていません。記者の質問:イスラエルは現在、決議2712(2023)[市民の保護に関する国際法を遵守し、緊急人道的一時停止をし、ガザ地区に救援物資を入れることなどを求める]と2720(2023)と、国際司法裁判所の暫定措置に違反していると思うか:でした。山崎議長の回答は以下のように記されています。

 山崎氏は国家の自衛権[イスラエルがパレスチナを攻撃する言い訳]を認める一方で、国際人道法を含めた国際法を遵守する義務が国家にはあると強調した。

日本が大量虐殺の苦しみ、広島と長崎に2発の原爆を落とされた経験をしていることを考慮すると、パレスチナの人々に同情を感じ、ガザで起きていることをジェノサイドと分類するかときかれ、山崎氏はガザの悲劇が明らかになったので、パレスチナの人々に同情を表明するが、ジェノサイドの問題は国際司法裁判所で決定されるべきものだと言った。

 UNRWAへの資金拠出を再開する条件について聞かれると、彼はUNRWAの役割は「必要不可欠」と述べた。UNRWAの職員数人が10月7日の攻撃に関与したという主張に懸念を口にして、UNRWAが信用を取り戻すことを望むと述べた。日本は他の寄付国と相談していると言った。

山崎議長のこの回答には、現在の日本政府と外務省の人道観、倫理観、独立国家としての主体性など、微塵もないことを示しています。その上、イスラエルによる虚偽に満ちた主張を見極める能力さえないようです。UNRWAの職員数人が10月7日の攻撃に関与したというイスラエルの主張に証拠がないことは当初から指摘されていましたが、食糧確保の権利に関する国連特別報告者マイケル・ファクリによると、2月29日時点で、「最初イスラエルは12人だと言い、今は3万人の職員のうち9人に減らされた」と、イスラエル側の証拠がいい加減だと指摘しています。

その2週間後、3月14日に「EUの人道支援部のトップが、UNRWAの職員に対する容疑を主張するイスラエルから何も証拠が示されていないと言った」こと、アメリカは議会で反対があるから、寄付停止は永久的に続くと政府高官が言ったと報道されました(注19)。イスラエルを日本政府は支持し、それをNHKがNHKスペシャル「映像の世紀バタフライエフェクト:イスラエル」(2024年3月4日放映)で放映して、パレスチナ人など存在しないと日本人視聴者に信じ込ませる役割を果たしているようです(注20)

アメリカの停戦決議案は本当に停戦を求めているか?

 3月22日に国連安保理でアメリカの停戦決議案が出されましたが、中国とロシアが拒否権を行使しました。フランスのマクロン大統領はフランスが代替案を検討中と言った上で、「重要なことはアメリカが立ち位置を変えたことで、停戦を支持する意思をはっきり示したことだ。アメリカは長い間沈黙してきたが、その沈黙は去った」(注21)と評価しました。

 ところが、アメリカ案の文言を分析したフィリス・ベニスは「アメリカはガザ停戦を求めると言ったが、国連決議案はそう言っていない」(注22)、これは「言葉遊び」だと批判しています。

 [この決議案は]イスラエルとの関係が緊密なバイデンが国内外からの高まる批判を受けて、両サイドを巻き込む試みの表れだ。アメリカは安保理で拒否権を発動し続け、拒否権のない総会では反対し続け、他の国に決議案に反対しろと経済的政治的圧力をかけてきた。バイデン政権が言葉を変えても、イスラエル支持を続け、軍事援助を送り続けているからバイデンに対する反対運動がものすごく高まっている。

 アメリカの決議案の最初の文言は、停戦の重要性を認め、次に「したがって、現在クエートのドーハで行われている交渉を支持すべきだ」と述べている。この交渉は主に人質解放と条件としての短期停戦、多分6週間を求める。重要なのは、アメリカ案の文言は非常に複雑で、安保理からあらゆる権限を取り去り、安保理が現在進行中の交渉の応援団に過ぎないようにして、安保理の即時停戦要求を取り去っている。安保理の決議は国際法で、強制力があり、実際に強制するという意味ではないにしても非常に強力なシグナルだ。

 ここ数年、民主党ではイスラエル支持が顕著に減ってきて、共和党サイドでは、イスラエルなら全て完全に受け入れるようになった。今はその継続だ。上院の共和党指導者は2015年のパターンを繰り返している。その時ネタニヤフを議会に呼んでオバマ大統領にプレッシャーを与え、当時議論されていたイランの核交渉に反対しようとした。これは外交的に許せない。これはそれ以前には決して起こらなかった。ホワイトハウスとの打ち合わせはなかった。普通は国家元首が来る時は、大統領の招待による。ネタニヤフはホワイトハウスを無視して、議会の共和党指導者の招待でやってきて、まるで自分の議会のように、選挙スピーチのようなスピーチで、議員に向かってイスラエルの国益にあう大統領を選ぶように呼びかけた。これに反対して、議員の60人ほど、主に進歩的、特に党の黒人幹部会がネタニヤフはオバマ大統領に対して人種差別(racism)をしていると抗議し、彼のスピーチをボイコットした。こんなことは起こったことがなかった。

 今それが繰り返されている。イスラエルへの更なる支持を要求する野党共和党のパートナーとしてネタニヤフが登場し、イスラエルに更なる資金、更なる武器を要求している。バイデン政権が言葉とは反対に、更なる武器と資金を送り続け、イスラエルに条件なしに1400万ドルを認めると議会を説得しようとしている。しかも、これはアメリカの法律に違反している。

 我々が明確にしたいのは、ネタニヤフが辞職するか選挙でリコールされても、彼の代わりになる人々は皆戦争を支持していることだ。チャック・シューマー[Chuck Schumer: 1950-: 上院与党・民主党トップ]のような人々は幻想を抱いているように思う。ネタニヤフでない限り誰でも歓迎で、ワシントンは更なる武器を与えるというのが非常に危険な現実だ。この恐ろしいジェノサイド戦争は、一人を取り替えれば解決だと思ってはいけない。

大量殺戮兵器を製造・輸出に前のめりの岸田政権・自民党+公明党と内政干渉するイギリス

 2024年3月4日の国会答弁で、岸田首相は殺傷能力のある武器を第三国へ輸出するのが望ましいと述べました(注23)。パレスチナの人々のジェノサイドにも使われる武器を喜んで輸出すると言っているのでしょうか。停戦の努力などする気はないと表明しているようです。

 カナダ政府は1月8日に「新たな武器輸出をイスラエルに対して許可しない」と決定し、3月20日、武器がカナダの法律に従って使われる確証がない限り、この凍結を続けると言いました。カナダ法によると、「武器が『国際人道法に深刻な違反』や『女性と子どもに対する深刻な暴力行為』に使われる場合は輸出を阻止する。カナダ政府はまたその武器が『平和と安全保障に寄与するか傷つける』かを検討しなければならない」そうです(注24)。岸田政権と自民公明党の現在までのイスラエルに対する態度からは、たとえ将来的であっても、「女性と子どもに対する深刻な暴力行為」に使われる可能性を知りつつ輸出を促進するのでしょう。

 3月4日の国会答弁の中で、イギリス政府が日本に「防衛装備移転三原則」の変更を求めたいと表明したことが明らかにされましたが、日本もバカにされたものです。イギリス議会でイギリスの国防相がイギリスの欲望に合うように他国の憲法・法律を変えろと言うのは内政干渉ではないでしょうか? 同じこと(イギリスの法律を日本の国益に合うように変えろ)を日本の防衛大臣が国会で言ったら、イギリスは日本大使を召喚して謝罪させるでしょう。日本では政府もメディアも欧米の内政干渉を当然のことのように受け止めています。それは両方とも欧米追従の姿勢で、平和憲法を捨て、武器製造・輸出を推進したいからでしょう。

 そんな日本を別の文脈でですが、ロシア外務省情報局長が「便利なばか」と呼んだそうです。2月27日に声明で、米英両国が「日本指導者を『便利なばか』として利用している」と述べたと報道されています(注25)。ロシアも日本を「便利なばか」と見ているはずですが、他国、特にロシアに敵対的な欧米と日本との関係はよく見えているのでしょう。

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1 “The Life and Death of Aaron Bushnell: U.S. Airman Self-Immolates Protesting U.S. Support for Israel in Gaza”, Democracy Now!, Feb. 28, 2024
https://www.democracynow.org/2024/2/28/aaron_bushnell_self_immolation_gaza_protest
2 Ramesh Ponnuru, “Opinion Self-immolation is not an act of political protest we should celebrate”, The Washington Post, Feb. 28, 2024
https://www.washingtonpost.com/opinions/2024/02/28/aaron-bushnell-protest-fire-dangerous/
3 Masha Gessen, “Aaron Bushnell’s Act of Political Despair”, The New Yorker, Feb. 28, 2024
https://www.newyorker.com/news/our-columnists/aaron-bushnells-act-of-political-despair
4 “Israel Kills 104 Palestinians Waiting for Food Aid as U.N. Expert Accuses Israel of Starving Gaza”, Democracy Now!, Feb. 29, 2024
https://www.democracynow.org/2024/2/29/united_nations_gaza_starvation
5 David Gritten, “Israel approves plans for 3,400 new homes in West Bank settlements”, BBC, March 7, 2024
https://www.bbc.com/news/world-middle-east-68490034
6 “West Bank violence: ‘My child’s destiny was to get killed’”, BBC, 9 March 2024
https://www.bbc.com/news/world-middle-east-68514581
7 “’Israel has launched Rafah invasion quietly to avoid international reactions”, Al Jazeera, 19 March, 2024
https://www.srilankaislandnews.com/news/israel-has-launched-rafah-invasion-quietly-to-avoid-international-reactions202403200942060014/
8 Phyllis Bennis, “Gaza shows food airdrops often take lives instead of saving them”, The Hill, 03/12/24
https://thehill.com/opinion/international/4523981-gaza-shows-food-airdrops-often-take-lives-instead-of-saving-them/
9 Michael Crowley “U.S. Begins Airdrops of Humanitarian Aid in Gaza”, The New York Times, March 2, 2024
https://www.nytimes.com/2024/03/02/world/middleeast/us-airdrop-gaza-aid.html
10 ”Report from Rapha: U.S. Airdrops Food to Gaza While Arming Israel to Drop Bombs”, Democracy Now!, March 04, 2024
https://www.democracynow.org/2024/3/4/gaza_starvation_akram_al_satarri
11 “Biden Admin Quietly Approves 100+Arms Sales to Israel While Claiming Concern for Civilians in Gaza”, Democracy Now!, March 07, 2024
https://www.democracynow.org/2024/3/7/josh_paul_israel_gaza_war
12 「辻外務副大臣によるカッツ・イスラエル外務大臣表敬」外務省、令和6年2月28日 https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_00412.html
13 「『目を疑う』『恥ずかしくないのか』イスラエル外相との会談風景にカットスイカ…外務省のX投稿に批判相次ぐ」JCASTニュース、2024/3/4
https://www.j-cast.com/2024/03/04479006.html
https://news.yahoo.co.jp/articles/938fd3c7c2dc82e89ec274d47d6ea39cea8b02f5
14 Armani Syed, “How the Watermelon Became a Symbol of Palestinian Solidarity”, Time, October 20, 2023
https://time.com/6326312/watermelon-palestinian-symbol-solidarity/
15 「日本パレスチナ友好議員連盟による上川外務大臣表敬」外務省、令和6年3月7日 https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_00459.html
16 “UNRWA: Canada to resume funding for UN agency for Palestinian refugees”, BBC, March 9, 2024 https://www.bbc.com/news/world-us-canada-68518468
*“Australia resumes funding for UNRWA and pledges more Gaza aid”, AP, March 15, 2024
https://apnews.com/article/australia-unrwa-hamas-israel-gaza-funding-1b4bcb81251cf7eeed0904da9fe4144b
17 「UNRWAトップ、来日へ 拠出金の停止『見直し期待』連帯訴える」『朝日新聞DIGITAL』2024年3月21日 https://digital.asahi.com/articles/ASS3N4RWDS3NUHBI001.html
18 Press Conference by Security Council President on Programme of Work for March”, Security Council, United Nations, 1 March 2024
https://press.un.org/en/2024/240301-sc
19 Nette Noestlinger and Gabriela Baczynska, “No evidence from Israel to back UNRWA accusations, says EU humanitarian chief”, Reuters, March 15, 2024
https://www.reuters.com/world/no-evidence-israel-back-unrwa-accusations-says-eu-humanitarian-chief-2024-03-14/
20 「ノーマンズランドとしてのパレスチナ:ジェノサイドは10月7日に始まったのではない 岡真里さん 池田香代子の世界を変える100人の働き人96人目」デモクラシータイムス、2024年3月8日
https://www.youtube.com/watch?v=exKUQHb04rU
21 「英伊と共同開発 次期戦闘機輸出“日本にとって重要”岸田首相」NHK, 2024年3月4日
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240304/k10014378491000.html
22 Raffi Berg, “US call at UN for Gaza truce linked to hostages blocked”, BBC, March 23, 2024
https://www.bbc.com/news/world-middle-east-68627272
23 “U.S. Said It Was Calling for a Gaza Ceasefire, But Its U.N. Resolution Didn’t Say That: Phyllis Bennis”, Democracy Now!, March 22, 2024
https://www.democracynow.org/2024/3/22/phyllis_bennis_ceasefire_talks_israel_palestine
24 “Canadian freeze on new arms export permits to Israel to stay”, Reuters, March 21, 2024
https://www.reuters.com/world/canadian-freeze-new-arms-export-permits-israel-stay-2024-03-20/
25 「日独などは『便利なバカ』ロシア外務省局長、G7声明で」『東京新聞』2024年2月27日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/311837?dicbo=v2-a4midk9
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