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2019-06-12

英米に伝えられた攘夷の日本(6-4-3)

1857年の英米メディアには、中国に対する戦争を煽る記事と、アメリカの参戦拒否に関する記事が掲載されます。

The Late Engagement with Chinese Junks in Fatsham Creek
(佛山水道で中国ジャンクとの最近の戦闘)

左よりWar Junks, Mounting Twelve to Fourteen Guns(戦争ジャンク、12-14の銃を装備)、
Snake Boats(スネーク・ボート)、A Small Creek—Sampans(サンパン船)、Mandarin Town of Toung Konan(役人町)、Fort(砦)、Point Dividing the Creeks(支流の分岐点)
出典:『イラストレイテッド ・ロンドン・ニュース』1857年8月29日(注1)

フランス他ヨーロッパ列強の参戦

『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』掲載のイギリス・メディア記事の紹介です。

1857年5月2日: 第2面「中国皇帝から引き出すべき譲歩/中国の防衛準備/合衆国が対中国同盟への参加拒否」(『ロンドン・スタンダード』パリ特派員より、(注2)

  • イギリスの更なる中国作戦にフランス政府が協力することは最も元気付けられる。カトリック協会がフランス皇帝[ナポレオン3世]に、中国にいる多くの宣教師を保護するために、戦争に積極的に参加することを訴えた。
  • エルギン卿は北京内閣に条約の更新を要求すると言われている。商業に関しては、5港の代わりに、9港をヨーロッパに開港すること;外交使節団をロシアと同じ条件で北京に常駐させること;攻撃と防衛に関して、イギリス政府は領事がいる場所全てに軍の駐屯地を設立し、軍艦がどこの港にも入港する権利を要求すると言われている。
  • エルギン卿はイギリス政府から全権限を委任され、戦争の機会の決定権も、いつ戦争を始めるかの権限も持つ。

「ポルトガルが中国に遠征隊」(『ロンドン・タイムズ』のパリ特派員より, p.2)

  • リスボンからの私信によると、ポルトガル政府は中国の事件に関して、王国の港[マカオ]に遠征隊を送る準備をしており、マカオ駐屯地の人員をポルトガル軍の最強の部隊から選んで4,000人に増強する。

アメリカの参戦拒否

「合衆国と中国におけるイギリスの紛争」(『マンチェスター・ガーディアン』より, p.2)

  • イギリスがカントン人と[葉]帝国長官に道理を悟らせるため、外国住民、外国商人と中国人住民、中国人役人との関係を満足いく条件にする努力に、アメリカ政府が協力を拒否した。もしこれが本当なら、ブキャナン大統領政権は深く後悔することになるだろう。
  • 世界最強の3国家がカントンに集結して、最近ここで犯されている暴虐の弾圧に一致団結して強硬な方法で当たること(中略)を中国政府が見たら、頑固な中国帝国もこの3国に耐えることはできないとわかるだろう。

中国の防衛準備

「中国の防衛準備」(Moniteur de la Flotte[パリの雑誌]より, p.2)

  • 中国は現在、強力な防衛準備をしている。カントン攻撃以来、黄海に流れこみ、北京に通じる海河の22箇所に航行を妨げるための石のダムを作る巨大工事を行なっている。
  • 中国人は生まれつき悪意に満ちており、その邪悪さは狂信性によって増幅され、筆舌に尽くしがたい。彼らを征服する方法は一つだけ、武力の示威や海軍の大規模な実演によって彼らを恐怖におとしいれることである。それはイギリス政府によって達成されようとしている。

戦争を煽るイギリス・メディア

1857年5月16日:第1面「中国戦争/暴動と虐殺/合衆国と中国/イギリスの中国攻撃」

「イギリスの中国攻撃」(Paris Paysより):第2面

  • イギリス軍遠征隊の規模は15,000部隊から20,000部隊に増強され、連隊を最強のまま維持する方針だ。中国が協定を拒否したら、この戦争は1回の戦役では終わらないと考えられている。
  • イギリスはフォルモサ[台湾]島の占領を始めるつもりだという。フォルモサは17世紀後半に激しい戦闘の舞台になり、1683年についに中国帝国に併合されたので、中国の宮廷はこの島の占有を特別に重要視している。

「ロンドン・タイムズ」より, p.2

  • 事態は危機に達した。この不誠実な人種を罰するには、我が帝国の全軍事力を使うしかない。我々は現状を「小さな戦争」と捉えるべきではない。我々はアジアの半分に分布している3億人と戦っているのだ。
  • ペルシャとの和平が達成するようなので(中略)、[和平条約の]批准が終わったらすぐに、この戦力を中国に向かわせる。
  • インドの反乱については、かなり不安な状況だが、一番反抗的な連隊が流血なしに解散させられたというので、やがて終わるだろう。
  • ペルシャの戦争が終わり、インドが静穏になり、ヨーロッパが平和状態で、我々の兵器庫と港が戦争関連店舗と軍船でいっぱいに詰まっている今、中国戦争を迅速に成功裡に成し遂げる準備は万端だ。しかし、我々のアジアの帝国の繁栄と、存在さえもが深刻な絶滅寸前になるのを見るのでなければ、司令官たちの気力と母国からの支援が必要である。

訳者コメント: 最後の文章は意味不明ですが、深読みすれば、イギリスが戦争を仕掛けて占領しなければ、中国は自滅するとでもいうのでしょうか。アメリカ人読者がこの記事を読んでいる頃、下田でハリスが日本人について、「奸智と狡猾と虚偽」「あらゆる詐欺、瞞着、虚言、そして暴力さえもが、彼らの目には正当なのである」(1857年5月14日、(注3))と日記に書いていたことを思い出します。

参戦拒否のアメリカを批判するイギリス・メディア

「中国との戦争における合衆国の態度」(『ロンドン・ポスト』より, p.2)

  • ネイピア卿(Francis Napier: 1819-1898)を通して、英国政府が中国における戦争遂行に合衆国の協力を求めた。
  • 同時に合衆国から必要とされているのは精神的支えだけで、「戦闘は全てイギリスとフランスでする」と知らせた。この提案に対し、カス長官[Lewis Cass: 1782-1866,アメリカ国務長官]は決定的拒否だったと伝えられている。
  • 2隻の蒸気フリゲート艦を含む艦隊がアメリカの道義力外交を支援するために中国近海へ向かうよう指令された。(中略)戦闘の舞台でアメリカ艦隊の存在がどんな効果をもたらすのだろうか? 激しい血なまぐさい戦争の最中に交渉するというのは、賢明な人間ならまともに考えもしない。凶悪で卑怯な中国人に厳しい復讐と適切な罰を与えるまでは、外交の出番はない。
  • この孤立政策というのは、利己的で、偉大で開明的な国民にふさわしくないように見えることを告白せねばならない。しかし、合衆国政府がグラッドストンやコブデンの中国紛争に関する見解(6-3-1, 6-3-2参照)を採用したり、彼らの見解を元に行動したりしたのではないようなので、満足である。
  • もし、この2人の紳士の論が正当だったら、もし、ジョン・ボーリング卿がとった方法が国際法に違反しているなら、合衆国政府はアメリカ商館の破壊に対する賠償を要求することが義務付けられている。これは不法に起こされた戦争によって起こった正当な報復の一つだということになるからだ。
  • アメリカの排他性にもかかわらず、 [中国に送ることになっている] アメリカ長官と中国近海のアメリカ艦隊の存在は(中略)、野蛮でどう猛な中国国民に世界の文明国家は侮辱と傲慢と抑圧にもはや甘んじるわけにいかないと決心していると示すだろう。

1857年5月22日:第1面「英仏使節が中国へ」 第2面「ロシアと日本が重要な条約」

 条文全部が掲載されています。

餌食に群がるワシの群れという比喩

1857年5月29日:第2面「中国と戦う偉大な十字軍:戦争とその目標」

(『ロンドン・タイムズ』5月14日より)

 題名の「十字軍」の意味が最初のパラグラフで明らかにされます。フランスだけでなく、スペイン・オーストリア・イタリアも中国に向けて戦艦を送るという内容です。重要点を抄訳します。

  • 今回の戦争の目的は聖戦ではない。もし戦闘を続けなければならないとしたら、この戦争は正当で避けられないものだ。この点で、我々だけが実際の交戦国であり、我々だけでこの戦いを行えるのだ。ではなぜワシ達が集まってくるのか? もちろん、いつものように匂いで集まってくるのだ。彼らを惹きつける死骸は巨大な人口過多の帝国だ。餌食の普通の無力さに見られるような、力の尽きた、腐敗した、バラバラに崩壊したものではないかもしれないが、新旧世界の慧眼な政府には抗えない誘惑に見える。
  • 問題のこの国は、たまたま生活必需品以外の全ての珍重品で需要の高いものの独占権を持っているのだ。西洋の市場に不可欠のシルクの宝以外にも、この国は豊かなのだ。しかし、この国の魅力は単なる生産性だけではない。(中略)中国帝国は非常に大きく、生産物は幅広く、この点で自給自足の習慣は数世代にわたって中国人に叩き込まれているので、たとえ我々が全ての設備を手に入れたとしても、この国の内陸部までヨーロッパ製品をすぐに浸透させられると期待するのは安全ではない。
  • では、これほど普遍的に感じられている中国の魅力はどこにあるのだろう? 多分、巨大な帝国が世界に紹介されるという単純な事実にある。これまで中国は社会との交流を避けてきた。誰も受け入れず、誰も外に行かなかった。その障壁が今や取り除かれようとしている。
  • もはや発見すべき新たな国はない。我々は地球を何周もして、北西航路さえ発見した。もし他に新しい発見すべきものがあるとしたら、長いことその存在が知られてはいたが、今まで近づけなかった国、それが中国だ。確かに日本も閉ざされた国だが、中国の巨大な帝国に比べれば、地図上の小さな点にすぎない。

訳者コメント:これほど露骨な「文明国家」と「人間性」の定義を聞かされた挙句に、アジアの「半野蛮国」を欧米列強が大挙して攻撃する目的はただの好奇心からだと開き直られて、1世紀半後の私たちは唖然とするばかりですが、本音がどこにあるかを、数日後の新聞に掲載された香港とカントンのアメリカ貿易会社からの訴えが語っています。

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1 The Illustrated London News, Vol.31, 1857 July-Dec., p.212.
米国大学図書館協同デジタルアーカイブ、ハーティトラスト・デジタル・ライブラリー
https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=uc1.c0000066803
2 The New York Daily Times, May 2, 1857,
https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1857/05/02/issue.html
3 坂田精一訳『ハリス 日本滞在記(中)』、岩波文庫(1954)1997、p.250.