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2019-09-06

英米に伝えられた攘夷の日本(6-6-1)

アメリカ政府の日本遠征計画がアメリカ議会で議論され始め、創刊間もない『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』が日本に対する「事実上の宣戦布告」だと反対の声をあげます。

ペリーは武力行使する可能性があったのか?

ントン攻撃の情報をオランダ商館長から得て、ハリスとの交渉にあたっていた幕府は商館長から忠告を受けて、担当部局から意見を求めます。目付などの評定所一座は、最初にペリー来航時の幕府の対応について、「厳しく拒絶遊ばされるべきところを、こちら側の武装が十分でないため、その場の処置として穏便な扱いになり、大方アメリカ側の要望をお聞き届けなされた」という趣旨の苦情を述べています。そこで、1857年の幕府の対応を見る前に、ペリーが武力を行使する可能性があったかどうかを『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』(NYDT)と『イラストレイテッド ・ロンドン・ニュース』(ILN)の記事から探ってみました。英米の新聞読者に何がどう伝えられたかを知ることは21世紀の日米関係を理解する一助になると思います。NYDTの創刊号は1851年9月18日なので、それ以前の記事はILNから探りました。

  • 1851年8月2日(ILN):「化学」((注1), p.162)
     金は日本に極めて豊富に存在すると言われている。しかし、この排他的な島国の皇帝は自由貿易の利点について全く無知だし、自国の金を大事にしているから、彼の兄弟である中国にも少しも与えない。中国では金が非常に少ない。
  • 1851年12月12日(NYDT):アメリカ議会上院(12月11日)「日本との通商」(注2)
     議長は上院にアーロン・パーマー(Aaron H. Palmer)からの日本との通商に関する未刊の本を提出した。討議の結果、通商委員会に付託することにした。
  • 1852年1月13日(NYDT):アメリカ議会上院(1月12日)「日本」(注3)
     通商委員会のスワード氏(William Seward:1801-72)が、日本の通商に関するパーマーの本をこれ以上検討することから委員会を免除する決議がなされたと報告し、承認された。

初期の日本遠征計画とアメリカによる「最後通牒」

解説:アーロン・パーマーの「未完の本」というのが1857年に出版されています。『日本への使節団の発端を証明する文書と事実—合衆国政府によって1851年5月10日に認定され、合衆国海軍ペリー提督と日本の長官たちによって江戸湾神奈川で1854年3月31日に締結された』(注4)と題する文書です。この中に収められている1849年9月17日付のパーマーから当時の国務長官クレイトン(John Middleton Clayton: 1796-1856)に宛てた書簡によると、最重要の要請が日本に対する賠償でした。漂流したアメリカ市民に対する日本当局の残虐な扱いに対する賠償を求めて開国を迫る使節を送るようにという要請文です。そして、合衆国の全艦隊を江戸湾に送り、首都で将軍(seogoon)か帝国政府の適切な部署の長に「最後通牒」(ultimatum:原文は斜体で強調)を手渡すことと述べています。「最後通牒」の第一番目が以下です((注5), p.12)。

第一:難破したアメリカ人船員の拘留、投獄、そして日本人役人による野蛮な扱いに対する完全かつ十分な賠償金。その賠償を求めるために[日本に]送った艦隊の費用(江戸湾に送り、滞在する費用)を日本政府に要求する。アメリカ人およびアメリカと友好関係にある国々の市民が日本滞在中の安全の保障と彼らに対して今後良い扱いをすることを誓う誓約書を日本政府から強要すること。アメリカ市民の拘留、投獄、虐待はアメリカ政府に対して説明責任がある。さらに、これら市民への暴力や虐待の結果、死んだ場合は、その遺族か法定代理人に5000ドル支払うこと。また、必要と認められた場合、合衆国艦隊がこれらを回収するための付帯費用を求めること。

「最後通牒」はこの他に4項目ありますが、最後の部分が重要なので訳します(p.13)。

 将軍が上記の「最後通牒」に不服従の場合は、[使節団]長官は江戸湾の完全な封鎖をする指示と権限が与えられること。同じく松前とその他、日本の海運都市のうち、長官が好都合とみなす海運都市を封鎖すること。日本が上記の「最後通牒」に従うか、長官が与えられた指示の範囲内で長官が満足いく修正がなされるまでは、報復として日本の商業税とジャンクを貢がせること。

強制的手続きが必要とされた場合、日本の沿岸貿易のほとんどを停止させるのは簡単だ。日本の沿岸貿易は非常な広範囲に及ぶが、首都に向かう政府の全ての船と貿易船を拿捕し、政府の収入を妨害すれば可能だ。江戸の海運港である品川では、時には数千隻の船が集まる。税金を金銭やその他の方法で集め、商品や魚を積んでいる船だ。魚は日本の全階級の主食で、首都に毎日供給される。それが止まったら、政府はすぐに妥協するだろう。

日本は勇敢で戦闘的な国だが、あらゆる点で攻撃されやすい。たった1隻の戦艦に対抗するための国防の方法がない。砦のほとんどは布に描いたもので、弾薬はお粗末だし、武器使用には全く熟練していない。軍隊は主に弓矢と火縄銃の武装だ。日本のジャンクは300トン以上のものはないし、1隻の戦艦もない。

  • 1852年1月31日(NYDT):「日本遠征」(注6)
    『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』特派員、ワシントン、1852年1月28日

    我が国の海軍工廠で示されている尋常ならざる熱意は、政府が日本に大部隊を送るのがいいと考えていることを示す。その目的はアメリカの船員の返還を日本皇帝に要求し、できれば我が国の商業用にもっと日本の港を開くことを要求するための[武力による]後援である。昨年7月にサスケハナ号がオーリック提督の指揮で日本に送られた。提督はフィルモア大統領の日本皇帝宛の書簡を携えていた。親善と通商を提案する書簡だった。また、我が国の船に救助された日本の漂流民を我が国の費用で送り返す目的だった。サスケハナ号はリオで長期間修理に手間取り、その後航海を続けた。一方、日本は我が国の船員全員を解放していないという情報を得た。この理由とその他の理由から、オーリック提督を増強するために、ミシシッピー号、サラナック号、数隻のフリゲート艦と軍艦を送ることに決定した。これは相当のショーになる。

日本遠征計画は日本に対する宣戦布告だというメディアの批判

  • 1852年2月2日(NYDT):「日本への遠征」(注6)
    『エクスプレス』より引用:「日本は塀の後ろに宝を隠しておく権利はない。国民を軽蔑すべき無知の迷信の中に閉じ込めておく権利もない。日本が地球上の強国の一つであり、手段も能力も義務もあると日本に感じさせ[原文強調]なければならない。もし日本が開化されることを拒否したら、日本自身よりも日本のことを知っている者の義務は日本に無理にでも、より良い日への夜明けを押し付けることである[原文強調]。こうして、子どもは時には逆境を通して、自分の運命と義務を躾けられ、大人の強さと栄光に達するのだ」。

     非常に美しい教義だ。オリジナリティ以外はあらゆる美点がある。千年以上前にモハンマドや[弟子の]アブベッカー、オマールなどが同様の考えを持っていたとしたら、『エクスプレス』紙がどうして責められよう。(中略)

     『タイムズ』の読者は、政府の命令でアメリカの商業のために日本を開国させる遠征隊が準備されていると言われていることを知った。我々はこのストーリーを信ぜずに、価値ある部分だけ報じた。しかし、『エクスプレス』はその話を信じ、その手段を長々と擁護した。しかし、我々は2,3の理由から、この不信感を維持する。

  1. この行動は、噂の通りの形なら、事実上の宣戦布告だ。そして執行部が戦争を起こす権利があると考えることが既に十分な害毒をもたらした。憲法をあれほど熱心に護ってきた政権が、憲法を傷つけるようなことは決してない。
  2. 武装した遠征隊によって、アメリカ市民の解放のための交渉を始めることは政府の慣習ではなかった。1812年戦争[米英戦争]が布告されるまで、7000人の徴用船員が長い交渉の理由だった。アンティル諸島に投獄されたアメリカ市民はアメリカ艦隊によって解放されたのではなかった。
  3. それに我が国の船乗りが日本に収監されているという証拠はない。もしそうだとしたら、それは彼らがあの帝国の法律を犯した結果に違いない。その場合、ウェブスター氏(Daniel Webster :1782-1852;この時の国務長官)と『エクスプレス』によって我々が知らされたのは、我々には介入する権利はないということだ。
  4. しかし『エクスプレス』は、日本が閉じこもって人類と交際しないという「権利はない」;したがって[原文強調]、日本の港は多くの牡蠣のように武力でこじ開けられるべきだと強調した。これは決してやってはいけない。大統領と合衆国の国民は少なくとも1点だけ合意している。それは「国家は他国の国内問題に介入する権利はない」(原文強調)ということだ。これに関しては、全当局がそれを発表する適切な時や方法は違うとしても同意している。そうだとしたら、我々はどんな顔して、この島国の人間嫌いのオーソン(Orson:語源は子熊)を捕まえて、彼を人間社会のまともなメンバーに改宗させるという忌むべきことができるのか!(原文強調)
  5. 権力としてのイギリスは告訴される[べきだ]。中国戦争は幸運な前例とされている。憎しみによる戦争から、イギリス政府は解放されることがない。今『エクスプレス』が提唱している同じ論が、[日本遠征の]この恥ずべき道が決定される前に自由に使われている。中国の貿易は世界に開放されなければならない。文明と宗教は武力で押し付けられなければならない。戦争が終わり、その結果をイギリスが手に入れたので、中国はこの親切の恩恵を十分に得ている。条約通りに認められた宣教師一人一人には100万ドル相当のアヘンが条約にかかわらず導入される。そして献身的な宣教師の努力によって個々の魂は救われたが、この恐ろしい毒で数万[の命]が失われた。我々はこんな例ではなく、もっといい例を手本とするよう祈る。
  6. 宗教面についてもう一言。(中略)キリスト教が野望の最悪の目的や、強欲の絶えざる要求のために売春すること(prostitute)に、我々は断固として反抗すべきではないか?

 ——これらのことは思考を刺激するための提案にすぎない。議論というより「内省の補助」である。別の機会に、もし現在の噂が立証されたら、この問題を十分に議論するかもしれないが、噂の通りの計画がないという希望にしがみつこう。

訳者コメント:『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』が創刊から4カ月半もたたないのに、これほどはっきりとアメリカ政府の日本遠征計画を批判し、反対する意見表明をしたことに驚きます。この後にアメリカ議会で反対表明が表明されますが、時系列的にこの記事が影響を与えたのかなとも思います。
 

 1849年のパーマー提言を読んで、21世紀の事例を連想しました。19世紀には日本の港を封鎖し、沿岸貿易を阻止するという発想でしたが、21世紀はインターネットによって世界中を監視し、日本中のインフラを停止させるマルウェアを埋め込んでいるという内部告発(注7)があります。

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1 The Illustrated London News, vol.19, July-December, 1851, Hathi Trust Digital Library
https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015027902801
2 ”Commerce with Japan”, The New York Daily Times, Dec. 12, 1851.
https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1851/12/12/issue.html
3 ”Japan”, The New York Daily Times, Dec. 13, 1851.
https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1852/01/13/issue.html
4 Aaron Haight Palmer, Documents and Facts Illustrating the Origin of the Mission to Japan Authorized by Government of the United States, May 10th, 1851, and Which finally Resulted in the Treaty Concluded by commodore M.C. Perry, U.S. Navy, with the Japanese Commissioners at Kanagawa, Bay of Yedo, on the 31st March, 1854, to which is appended a list of the memoirs, &C., prepared and submitted to the Hon. John P. Kennedy, Late Secretary of the Navy, by his order, on the 26th February, 1853, for the use of the projected U.S. Exploring expedition to Behring’s Strait, &C., under the command of commander Cadwallader Ringgold, U.S. Navy, Washington: 1857.
Hathi Trust Digital Library
https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=hvd.32044014327225
5 “The Japan Expedition”, The New York Daily Times, Jan.31, 1852, p.8.
https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1852/01/31/issue.html
6 ”An Expedition to Japan”, The New York Daily Times, Feb.2, 1852, p.2.
https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1852/02/02/issue.html
7 小笠原みどり「スノーデンの警告『僕は日本のみなさんを本気で心配しています』—なぜ私たちは米国の『監視』を許すのか」『現代ビジネス』2016.08.22
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/49507
「オリバー・ストーンが明かした“日本のインフラにマルウェア”のスノーデン証言」『週刊新潮』2017年2月2日号
https://www.dailyshincho.jp/article/2017/02020557/?all=1
「アメリカに監視される日本〜スノーデン“未公開ファイル”の衝撃〜」NHK「クローズアップ現代」2017年4月24日
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3965/index.html