ペリーの日本遠征計画についてアメリカ議会上院は、「米国と何の諍いもない日本に賠償金を求めるのか」と非難しますが、評決結果は半々で、翌日の『ニューヨーク・デイリー・タイムス』は上院が大統領に忖度していると批判します。
- 1852年4月9日(NYDT):「第32回議会…上院…ワシントン、4月8日 「日本遠征」(注1)
議会は日本遠征の目的を知らされていない
最近、海軍に命じられたインド洋、特に日本への遠征についてボーランド氏の、大統領に上院に説明をせよという決議案が取り上げられた。メイソン氏(James Mason: 1798-1871)が現時点では決議案に投票する権限がないと感じると述べた。彼は個人的にはこの遠征について何も知らないが、大統領は一般的な国益以外の目的は持っていないと推測すると言った。これに反する情報がもたらされるまでは、この決議案に投票することはできないと言ったが、これは普通ではない。
ボーランド氏が下院での議論を読み上げ、海軍委員会の議長が遠征隊がまもなく航海に出ると宣言したと示した。彼はまた、ボストンで出版された新聞記事を読み上げた。遠征は政権の主要メンバー(国務長官)によって立ち上げられ、特別機関として確立され、存命させられてきた。
米国と何の諍いもない国に賠償金を求めるのか
デイヴィス氏(Jefferson Davis: 1808-89)—何の文書か?
ボーランド氏—「私たちの国」(Our Country)という題名の文書だ。ウェブスター氏(Daniel Webster : 1782-1852, 当時の国務長官)を大統領にというあからさまな宣伝のために作られた文書だ。この中で、遠征の目的が様々あるが、日本から過去の損害賠償と未来の安全保証を得ることが目的だと主張されている。ボーランド氏が特に驚いたのは、この政権とその仲間たちが、メキシコ戦争が過去の損害賠償と未来の安全保障を得る目的だとして聖なる嫌悪(holy horror)を表明したのに、今や、我々が何の諍いも持たない国に対して同じような目的の遠征に着手し、奨励していることだ。政権が信頼している新聞がこのような情報を与えられ、遠征によって得られる偉大な目標を賛美する一方、遠征の費用負担の責任を担わされる上院が遠征に関する情報を要求するのはひどいと言う。ノースキャロライナの上院議員(マンガム氏、Willie Mangum: 1792-1861)が民主党に進歩と干渉の教義について訓戒した時、我が国の領土からはるか遠い国の人々に対する海外遠征を称揚したのは些か矛盾してはいないか?
評決結果は半々
マンガム氏は自分は民主党にもその他いかなる政党にも訓戒などしたことはないと言った。あの政党は肉体的倫理的勢いで動くから、自分が抵抗しようとするなどとは馬鹿げている。西洋の竜巻きをわら1本で止めようとするか、ジブラルタルの岩を火薬1粒で爆破しようとするに等しい。彼が何を言ったとしても、それがどの程度にせよ、民主党を支配したり、導いたり、改善したり(これがはるかに重要だ)するなどと考えもしない。(笑い)。
ボーランド氏は上院が民主党の権力の正しい概念を抱いていることを知って嬉しいと述べた。彼は繰り返し、この上院議員が干渉の教義を非難し、この遠征に賛成していることは矛盾していると考えると述べた。(中略)
グウィン氏が評決を動議し、結果は賛成20、反対20だった。
グウィン氏は決議案を延期する動議を出し、ボーランド氏が反対した。(中略)
結局、延期の動議が勝った。
この議会の内容について、翌日のNYDTにボーランド議員擁護の意見記事が掲載されます。この記事もかなり長いので、原文にない小見出しをつけて、段落を多くして訳します。
- 1852年4月10日:「日本への遠征」(注2)
上院は大統領に忖度している
ボーランド上院議員は困難な中で情報の追求をしているようだ。日本への遠征の目的を尋ねる彼の決議は再び延期された。上院は知りたがっていると見えることを望んでいない。上院は大統領の尊敬すべき意図を絶大に信頼している。遠征の意図が何か尋ねることで、大統領を怒らせたり、また不信感を表すことを恐れている。また、多分、尋ねた結果、回答が満足できるものでないことを恐れている。あるいは大統領が回答を拒否するかもしれない。しかし、動機が何であれ、ボーランド氏はこの問題に関する情報を行政部から引き出そうとする努力に対して明らかに大きな障害に遭遇している。
我々は彼の困惑を共有しているから、彼の失敗に特別な同情を感じる。この遠征の計画と目的に関する信頼できる確たる情報を手に入れることに大きな困難を経験している。政府機関によって至る所で、これが非常に大きな出来事となる;この国の商業に新たな分野を開く;東洋世界と合衆国の新たな関係をもたらす;様々な方法でこの共和国[の地位]を地球上の国家の中で高め、拡大する可能性が大きいと我々は聞かされ、安心させられている。これら全ては非常に喜ばしいが、あまり明確ではない。また、同じように強調されているのが、このアメリカ艦隊は日本当局が我々に被らせた損害の賠償を要求すること;日本の港を我々の商業に対して開港するよう強要すること;「どんな危険を冒しても」(原文強調”at all hazards”)日本の「首都」(Capital)に入ること;あの尊敬すべき国に地球上の1強国として義務を教えることだ。これらのより明確で、従ってより満足できる発表は政府機関のコラムを通して我々に伝えられた。
アメリカ政府の日本への過剰な介入に黙従するのは恥
政府は他国の出来事に参加することに対して最も暴力的に抵抗してきた。多分この状況が我々をして政府を信用できなくさせている。彼ら[アメリカ政府]はヨーロッパの介入を恐怖に駆られるほど恐れているのに、日本に介入しようとする。その過剰な熱意に黙従することに恥ずかしさを感じると告白する。しかし、この明らかな矛盾を一致させようと試みる価値はないだろう。(中略)
議会の様々なメンバーはアメリカが自分たちのことに集中し、他国にも自国のことに集中させることを表明する目的のために、ワシントンの誕生日をこれ見よがしに祝福したが、我々は疑念を抱いている。ウェブスター氏[国務長官]やその他権力の地位にある著名な男たちの見方では、「我々自身のこと」(原文強調”our own business”)というのは必ずしも我が国の地理的境界には縛られていないようだ。
国務長官ウェブスターは日本に干渉することを仄めかした
我らの輝かしい国務長官は多くの場で、他国の問題も我々の「こと」(原文強調”business”)であるという意見を仄めかしている。海の向こうの国々がしていることが我々には直接的に重要なことかもしれないこと;国際法と商法の様々な問題上、国際関係に触れる様々な事柄において、他の強国に警戒の目を光らせるのが我々の権利であり義務であること;地球上のあらゆる国と同様、我々が所有する権益を主張することである。(中略)数年前に彼が中国に送る我が国の大使に与えた指示を思い出せば、現政権が意図していることが次のようなことだと信じるのは不可能ではない。政権の機関が凄まじい聖戦で、我々特有の殻から外に出ることに反対したにもかかわらず、日本との関係、そしてその他の東洋の国々との関係を現在よりも良い立場に置くのが政権の意図だ。(中略)
アメリカ人船乗りが日本に虐待されたので日本の港を封鎖し爆破する
この遠征が、東洋の海における我が国の商業[捕鯨]と船乗りたちを保護するために日本に行くと知ることで、我々は喜ぶべきだ。アメリカ人の船乗りたちが日本当局によって地下牢に閉じ込められたり、カゴで晒されたり、その他の方法で虐待されていると発見されたら、噂は間違いではなかったと信じる。[そうであれば、]彼らを解放するために必要な、いかなる方法を使っても解放するであろう。アメリカ人船乗りたちがこのような経験をしたと言われているので、このような扱いをこれ以上容認するよりは、日本のあらゆる港がアメリカ艦隊によって封鎖され、爆破されるのを見る方がいい。我が国に関しては、日本は主張する権利も、乱暴する権利もない。そんなことは地球上のいかなる文明国から、一瞬たりとも認められもしないし、我慢もされない。
キリスト教の神の教えは国家や先住民族の領土権を無視して文明国に与えること
いかなる国も[世界と]「交際を断ち」(to isolate itself原文斜体で強調)、世界中を敵として扱う権利があるとは我々は信じない。国家の「領土」(原文強調Territory)に対する主権はいつも神の主権の下位にある。そして世界の政府のために神が確立した正義の道の下位にある。あらゆる国家の絶対的義務はその国の人民の幸せを促進することだと疑うことはできない。それは文明と開化とキリスト教を国境を通して広げ、人類の進歩と向上に向かって役割を果たすことである。この大陸の初期入植者たちが土地を奪い、その土地の野蛮な住民たちを追い払い、彼らの土地を人間の使用と栽培のために征服する者の手に委ねてきたことに、我々はどんな原則を正当化できるだろうか。土地は人間が耕し、征服し、産業と文明と幸福の住処とするために人間に与えられたという神の幅広い命令以外にはないのだ!(原文強調) したがって、普遍的進歩の道に永遠の躓きの石を置く権利はどの国にもない。(中略)
日本が文明国に領土を使わせないのは、神が創造した地球の乱用だ
我々は戦争を始めることも、仕掛けられることも望んでいないし、領土の不当な強奪も、独断的強制も望んでいない。しかし、地球上の他の全コミュニティが要求するように、日本から我々への対応に正義を求め、他の強国を敬意を持って認めることを要求する権利がある。日本は世界を無視する権利はないし、他の国々の存在がまるで自分たちの権利を侵害するものだという扱いをする権利もない。地球は人間の使用のために創造され、人類の幸福と文明の進歩に貢献しない時は乱用されているという感じ方が一般的になり、強まっている。全国家はたとえそれぞれの機関は異なっていても、共通の義務と共通の権利があるという感じ方が強まり、広がっているのだから、日本やその他の東洋世界の国々が現在の孤立し、停滞した孤独の立場を永久に維持することは許されない。
我が政府が日本に送ろうとしている遠征隊が新たな関係と「新たな発展と新たな時代」を東洋の国々に開くという名誉ある顕著な役割を果たすことを信じている。
訳者コメント:これまでの論調からトーンダウンしたような、矛盾した内容に思えますが、皮肉か反語的表現とも読めるし、日本に開国を迫る声が強まっているので、多少妥協したような論調に変わったようにも読めます。キリスト教文明国が世界中の土地と自然を征服し利用することが神の教えと信じた結果が、現在の世界規模の環境問題だと教えてくれるような内容です。
注
注1 | ”XXXIId CONGRESS…First Session. Senate…. Washington, April 8. Japan Expedition”, The New York Daily Times, April 9, 1852, p.1. https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1852/04/09/issue.html |
---|---|
注2 | ”The Expedition to Japan”, The New York Daily Times, April 10, 1852, p.2. https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1852/04/10/issue.html |