アメリカ国務省の広報ラジオ放送「我々の日本占領政策」(1945年10月7日)の主要部分を紹介します。(注1)
「国務省ブルティン 我々の日本占領政策」(1945年10月7日)の続きです。適宜、原文にはない小見出しをつけます。回答者の役職は6-7-3-5をご覧ください。
ドイツ占領と日本占領の違い
インタビュアー:
ところで、ヒルドリング大将、あなたはドイツと日本両方の占領政策に関わっているそうですね。両国の主要な違いは何ですか?
ヒルドリング:
大きな違いはありません。単純に言えば、二度と世界の平和を壊さないようにすることです。違いは主に、この目的を達成するための支配のメカニズムです。日本ではまだ政府が存在しているので、利用しています。ドイツでは中央政府がないので、我々の支配は地域に対するものです。
インタビュアー:
あなたの見解では、日本に政府があることに利点がありますか?
ヒルドリング:
日本政府を利用することによる利点は莫大です。もし、我々が利用できる日本政府がないとしたら、7000万人の国の統治に必要な複雑な機構全体を直接管理しなければなりません。日本人は言語も習慣も態度も我々とは違います。[軍国主義の]一掃(cleaning up)とその道具として日本政府を使うことによって、我々の時間とマンパワーとリソースの節約になります。言い換えれば、我々は日本人に自分の家の掃除をするよう要求し、その方法を提供しているのです。
公職追放
インタビュアー:
しかし、日本政府を利用することで我々が日本政府を支持していると批判する人もいます。そうであれば、日本の戦争に責任のある人たちを公職追放する我が国の政策の妨げになりませんか?
ヒルドリング:それは全くありません。我々が政府や産業界のどのグループも個人も支持することになりません。もし我々の政策が政府や産業界から誰かを排除することであれば、その人は排除されます。この点で日本政府の希望は重要ではありません。排除は毎日マッカーサー将軍によって行われています。
(中略)
インタビュアー:
ヴィンセントさん、日本の政治家はどうですか? 戦犯だと思える人がいるように思いますが。
ヴィンセント:東久邇内閣は先週辞職しました。今日の報道によると、幣原が首相になったというので、非常に心強いです。この内閣がどうなるか予想するのはまだ早すぎますが、前の内閣よりよくなると信じられる理由がたくさんあります。もしマッカーサー将軍によって公職にふさわしくないと思われたら、その人は辞めさせられます。
インタビュアー:
東久邇内閣の閣僚で戦争犯罪で裁かれる人はいますか?
ヴィンセント:
ここで個人名をあげることはできませんが、しかるべき機関によって戦争犯罪者として起訴された人は皆逮捕され、裁判にかけられます。閣僚という地位は何の保証にもなりません。(p739)(中略)
インタビュアー:
デニソン大佐、名前は除いて、財閥の人たちも対象とされますか? 大企業は軍国主義者に協力して、戦争で利益を得た人たちも有罪と考慮されますか?
デニソン:
ドイツに適用したのと同じ基本的政策に従います。ドイツでも起業家が戦犯としてあげられたことを覚えているでしょう?
インタビュアー:
ヒルドリング大将、日本の戦争遂行力に大きく貢献した大企業家についてはどうするのですか?
ヒルドリング:
我々の政策では、ファシスト・主戦論者(Jingos)・軍国主義者たちはみな排除されます。公職だけでなく、産業界も教育界もです。我々の国家政策は日本の戦争遂行力を破壊することです。これが意味するのは、大企業連合は解体されなければならない(原文強調)ということです。これ以外に達成方法はありません。
インタビュアー:
ヴィンセントさん、大企業についてどうですか?
ヴィンセント:
2点あります。戦争犯罪者と考えられる財閥のメンバーに対する訴訟を必ず起こすつもりです。それと、最も有名な三井・三菱・住友のような日本経済に威力を持っていた家族型大企業を解体するつもりです。
インタビュアー:
金融財閥も?
ヴィンセント:
そうです。もうお聞きになっていると思いますが、マッカーサー将軍は金融財閥の権力を解体し、彼らの略奪品を剥奪する方法を講じ始めました。
(中略)
ヒルドリング:
日本はあらゆる形の武器・弾薬・兵器、艦艇と飛行機の製造、開発、維持を禁じられます。この問題の大きな部分は、近代戦争経済の鍵だった日本の産業の削減と消滅を含んでいます。これらの産業は鉄・鉄鋼・化学・工作機械・電気機器・自動車機器の製造です。
ヴィンセント:もちろん、これは日本経済の主要な方向転換を意味します。日本経済は何年も全面戦争に必要なものに向けてきました。我々の厳重な監督のもとに、日本は労働力と天然資源を平和な生活という目的に向け直さなければなりません。
インタビュアー:
それは多くの失業者を生み出しませんか?何か失業に対処することがなされているのですか? 例えば、数百万の復員兵に対して。
ヴィンセント:
我々の政策は、日本の経済問題の解決は日本に責任があるというものです。日本は農業・漁業・[国内]消費製品の生産に集中すべきです。各都市で復興のための建設作業がたくさんあります。このような自己救済の努力に我々は介入するつもりはありません。我々は励ましは与えます。(p.740)
敵国に食料供給はしない
インタビュアー:
戦争用重工業から投げ出された工員たちはどうしたらいいのですか?
ヴィンセント:
日本が維持を許可されている軽工業に仕事を見つけるしかないですね。日本の産業経済のこの改造の目的は日本がもっともっと国内マーケット用に生産するように、経済を内向きにさせることです。
インタビュアー:
もちろん、生存のためには外国貿易が少しはなければなりませんね。
ヴィンセント:
もちろんです。しかし、戦前のような不健全なものではいけません。日本の戦前の外国貿易の資産の大部分は国内経済を支えるためでなく、戦争準備のために使われました。最終的にくず鉄と石油輸送は日本国民の助けになりませんでした。日本の外国貿易は戦前レベルよりずっと削減することができ、それでも生活レベルは戦前に匹敵するものにできます。
インタビュアー:
日本の食料事情について恐ろしい予想がありますし、米騒動の報道まであります。ヒルドリング大将、食料に関する我が国の政策はどうなるのですか?
ヒルドリング:
マッカーサー将軍は陸軍省に、この冬、日本の敵国民に何も供給するつもりはないと知らせました。この声明はその他の占領敵国における我が国の政策と一致しています。つまり、我々の占領目的を遂行する能力を危うくするような深刻な社会的不安や疫病を防ぐために必要な時だけに、敵国民に食料を輸入するということです。日本人は自分たちで食料を生産するか、輸入して供給しなければなりません。
インタビュアー:
そうするためには船が必要ですね。デニソン大佐、日本に商船の再建を認めるのですか?
デニソン:
日本が平和時の経済を再建することを認めなければなりません。これは武装解除の代償です。それは貿易を意味します。しかし、どの国の船で貿易を実行するかの問題はまだ決まっていません。日本を再軍備させないように、日本の輸入を管理しなければなりません。最良の方法は日本の貿易を連合国の船で行うことかもしれません。
インタビュアー:
それなら、民間航空はどうなのですか、デニソン大佐。マッカーサー将軍が最近、日本の輸送機の再開を許可したので、多くの人が非常に驚いていますが。
デニソン:
それは続けられません。マッカーサー将軍へのこの分野に関する指令では、民間航空は許可されていません。
ヴィンセント:
マッカーサー将軍が許可したのは緊急事態に応じるものです。その緊急事態以外に[民間航空が]続けられることはありません。(p.741)
(中略:農地改革について)
インタビュアー:
労働組合についてはどうですか?
ヴィンセント:
労働組合主義の発展は勧めるつもりです。民主主義の基本的な部分ですから(訳者強調)。
インタビュアー:
多くの前労働組合のリーダーたちと政治的リベラル派はいまだに刑務所に入れられたままだと聞いていますが、彼らを解放するために何がなされたのですか?
ヴィンセント:
マッカーサー将軍はすでに「危険思想」、また、政治的宗教的信条の理由で投獄されている全ての人を解放する指令を出しました。
インタビュアー:
それは日本の民主的勢力に新たなリーダーシップを提供することになりますね。デニソン大佐、我が国は日本の民主的勢力にどの程度援助するのですか?
デニソン:
我々の政策は日本人の間にリベラルな傾向をはっきりと促進するものです。建設的な改革計画を作成し、取り入れるあらゆる機会を彼らに与えます。
ヴィンセント:
民主的な政党は全て促進されます。集会の自由と公開討論の自由は保証され、占領当局は政党の組織化を妨害しません。日本政府は信教・思想・報道の自由の障害となるものを排除するよう命じられています(訳者強調)。
インタビュアー:
その意味するところは、民主的で反軍国主義グループは完全な自由を許されると理解しますが、国家主義的グループがギャングの手法を使って、民主的グループを妨害したら、どうしますか?
ヴィンセント:
鎮圧されます。マッカーサー将軍の政策ガイドは「日本におけるリベラル傾向の支持と促進」を求めています。(p.741)(中略)
インタビュアー:
もし民主的政党が目的達成には武力が必要だと思ったら、どうしますか?
ヴィンセント:
その場合は、最高司令官が我が国の占領軍を守るために必要な時にだけ介入することになります。これはリベラルまたは民主的な政治目的を達成するため、日本人は武力を使うことさえあるかもしれないことを意味します。
注
注1 | ”Hearings before the Subcommittee to Investigate the Administration of the Internal Security Act and Other Internal Security Laws of the Committee on the Judiciary United States Senate, Eighty-Second Congress, First Session on the Institute of Pacific Relations, Part 3”, United States, 1951. Hathi Trust Digital Library https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=uc1.a0002243236&view=1up&seq=5 |
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