1937年12月21日の『ニューヨーク・タイムズ』社説が日本の将来を予想しています。
『ニューヨーク・タイムズ』のパナイ号爆撃報道9日目:1937年12月21日続き(注1)
- 「アメリカ人が中国で逃避中に立ち往生—女性と子どもたちが漢口から逃避中に揚子江上の防材で引き返す—日本は攻撃続行—ロンドンは新首都に安全地帯を求める—香港は不安」:AP通信、上海発、12月21日(p.19,「中国からのクリスマス・カードでサンタが戦闘地帯上空を翔んでいる」というキャプションのクリスマス・カード掲載)
- 「合衆国軍は中国に留まるとハルが言った—現在の緊急事態では軍を撤退させないと上院議員に伝えた」:ワシントン発、12月20日(pp.1, 19)
スマザース上院議員がコーデル・ハル国務長官に、中日紛争地帯から合衆国の船と国民を撤退させるべきだと主張する書簡を出し、ハル長官が返答した[12月18日付書簡全部を掲載]。
現在の特殊な状況下で自国民の生命と財産を守る方法を主要列国は中国政府の承認のもとに作成し採用している。例えば、現在でも治外法権の管轄区があり、それに付随するものがある。アメリカ国民もその他の国の国民も数世代前に中国に行って、様々な職業その他の活動で暮らしてきて[訳者強調]、中国の状況の中で特権もあれば、不利益な面もある。アメリカ政府は他の国の政府と共に、様々な権利を受け、結果として様々な義務も負っている。現在のような状況が続く中で、彼らは突然この地を捨てることも、過去と切り離されることもできないし、アメリカ政府も義務と責任を捨てることはできない[訳者強調]。
アメリカ海軍の船と上陸部隊の小規模な分遣隊は、アメリカ国民の生命・財産・活動が影響を受けるような、特に地域的混乱や認定されていない暴力[訳者強調]から彼らを守り、秩序と安全を維持するために中国に駐留している。これらの船と部隊はどんな意味でも攻撃の任務に当たったことはない。アメリカ政府の長い間の希望と予想は、彼らの適切な機能が必要なくなったら、撤退させることだった。2,3ヶ月前に我々は撤退に好都合な時が近づいたと思った[訳者強調]。しかしながら、今はその撤退を実行する時ではない。
- 「斎藤[駐米大使]の話が批判された—コナリーは斎藤のラジオ談話は政府から承認を得るべきだったと言った」(p.19)
- 「日本の団体がパナイ号『救済』基金を支援」:東京発、12月20日(p.20)
日本ではパナイ号事件で国民のアメリカへのお悔やみの表明が続いている。Y.M.C.A.、Y.W.C.A.、ミッション・スクール、大学、親善団体など、アメリカの支援を受けてきた東京の20団体がルーズベルト大統領にお悔やみの手紙を書くことと、救済基金の募金をすることを昨日決めた。(中略)人々のこの気持ちがあることが、当局が詳細を隠す理由だ。もし知られたら、国民の信頼を失うだろう。
- 「日本が南京を攻撃する光景」[写真2枚掲載:燃える南京の町からボートで離れる日本軍、南京のアメリカ大使館の敷地内地面に空爆を避けるためにアメリカ国旗を置く人物]
- 社説「中国における日本」(p.22)
昨日、上海から『タイムズ』へ送られた記事は疑いようのない情報源に基づいたもので、パナイ号事件に重要な新たな光を投げかけた。この記事の概要は、アメリカの砲艦に機関銃で攻撃したのは、昨年東京で起こった陸軍の反乱で主導的役割を果たした大佐が下した命令によって行われたこと、その彼の懲戒処分の問題をめぐって日本の最高司令部の中で恐ろしい闘いがあったことだ。我が社の上海外電によると、外国が「日本陸軍の首脳たちはもはや信頼できない」という結論を出しはしないかと、「保守的な日本陸軍グループだけでなく、政府全体に不安が急速に高まっている」[訳者強調]という。
日本が中国で追及するのは利益を生むマーケットではないのか?
これを信じる理由はいくつかある。少なくとも陸軍の作戦が中国で始まって以来、日本のあらゆる派閥が戦争感情で一致団結して以来、中国で何を追求するのかの適切な政策に関して、国民の意見と陸軍の意見の間に深い溝が広がった。日本が中国で何を必要とするかは何よりも日本製品にとって利益を生むマーケットだという事実を理解して、先見の明のある東京の文民リーダーたちは昨夏、賽が投げられる前は、和解政策を支持し、中国の親善を意図的に培おうとした。彼らのアドバイスは破棄され、日本の中国政策は実際は陸軍によって決められたことはその後の出来事の経緯から明らかである。
しかし、今上海からのニュースで現れているのは、陸軍自体の内部で長い間潜在していた闘争—伝統的な保守系の意見と昨年クーデター未遂事件を企んだ、いわゆる青年将校派閥の意見との分断—が中国を侵略した陸軍の規律に影響を与え始めていることだ。この場合、90万人もの部隊で青島、漢口、広東という広範囲を目的にした大規模な作戦が、揚子江で起きたような事件に似た事件が起きることに繋がることを恐れる理由は、なおさら今以上にある。
日本の中国政策の3つのリスク
日本が現在追求している政策には、散在する中国軍部隊との遭遇という問題とは全く別に、日本にとって疑いないリスクが3点ある。最初のリスクはパナイ号沈没のような「事件」(原文強調)がもっと起きる可能性だ:外国に対する直接的侮辱はこれらの国々で憤りが徐々に高まりを生むのは必然だ。
2番目のリスクは日本政府の財力が陸軍が政府に課する巨大な事業に耐えられないことを証明するだろう。3番目のリスクは、たとえ最初の2つのリスクがうまく避けられたとしても、最終的に日本製品にとって不可欠なマーケットを破壊することで、取り返しのつかない被害を自らにもたらしたとわかるだろう。この関連で我が社の上海特派員の最近のコメントを思い出すのがふさわしい:戦争が長引けば長引くほど、破壊が大きくなり、中国通貨が完全に崩壊する日が近づき、日本にとって中国での好機はどんどん少なくなると戦争の最後に分かるだろう。[訳者強調](中略)
日本が求める鉱山と自然資源の開発は現実的に不可能だ
日本の軍閥は中国マーケットをほとんど失っても、新たな「傀儡」[原文強調]政府[複数形]が立ち上げられた地方の鉱山と自然資源を日本が開発することで相殺される以上[の利益]だと希望しているのは明らかだ。しかし、この種の開発は途方もなく高いビジネスで、おそらく追い詰められている日本政府自体の力の及ばないことだ。そしてこのビジネスは外債という形の財政援助を必要とする。このような援助を日本はおそらく得られない。なぜなら、外国政府は満州の傀儡政府を意図的に承認していないのだから、万里の長城の南の傀儡政府を承認する、または、新たな「独立」(原文強調)政府にローンを認めると信じる理由は全くない。
我々の場合は、もしアメリカの銀行やわが国の商業的関心が、日本が中国国民から盗んだ資産の持続を確かなものにする行為をアメリカ国民が許すと、日本が一瞬たりとも信じるとしたら、日本はこの状況を酷く読み違えているのは確かだ。
『ニューヨーク・タイムズ』のパナイ号爆撃報道10日目:1937年12月22日(注2)
- 「日本が英首相から警告—チェンバレンは強硬— [数々の]挑発によってロンドン[政府]の忍耐の限界がくると言った—誠実さの証拠を示せ—中国に戦艦を送れと自由党が求める—労働党はボイコットを主張」:ロンドン発、フェルディナンド・クーン・Jr.、12月21日(pp.1, 12)
今日の下院でネヴィル・チェンバレン首相(Neville Chamberlain: 1869-1940)とアンソニー・イーデン外務大臣が著しく慎重なスピーチをし、現在の英国の極東政策は注意深い経過観察だと言った。チェンバレン氏は日本に対して強い口調だったが、日本が香港を攻撃したり、最近の揚子江攻撃で英国市民の命を狙うような目に余ることを繰り返したりしない限り、強い行動はとらないという印象を与える内容だった。首相は「我々が今しているのは、日本政府がこのような事件を繰り返さないという決断と能力があるかの証拠を待っていることです」と述べた。[中略:非常に長い記事ですが、重要と思われる点だけ抄訳します]
イーデン氏は、戦争準備としての制裁でない限り、いかなる制裁の考えを否定するとはっきり述べた。(中略)野党労働党党首のクレメント・R. アトリー(Clement R. Attlee: 1883-1967)は日本による英国とアメリカの戦艦攻撃は満州国併合直前に日本がロシア船を攻撃したことに「不吉な類似」(原文強調)があると主張した。「香港が本土から切り離され、上海は遺棄されるかもしれない」と予想して、英国政府は日本を抑止することに失敗していることに「政府自身の過去の行動の結果を得ている」とアトリー氏は政府を非難した。
野党党首は、日本が外国船を攻撃したのは、「その結果どうなるかを見るためで、中国内のその他の人たちの生命・財産・権益を完全に考慮していない」と言った。「日本はまるでフランコ将軍[原文注:スペインの反乱リーダー]のように振る舞い、英国商業はスペインの女子供と同程度にすぎない。日本は極東のヘゲモニー[覇権]を欲しているのだ」と言った。アトリーは国際連盟の権利と義務は「中国が侵略と戦うことを支持することだ」と締めくくった。
- 「スティムソンは戦争国民投票に反対—ラドロー計画は国家の防衛システムを破壊すると主張」(p.1)
- 「中国は楽観的;ソヴィエトが援助—ロシアは外モンゴルが日本と戦争したら外モンゴルを援助すると見られている—山東省は侵入者を追い立てた—数万人が攻撃を恐れて青島、広東、漢口から避難」:ハレット・アベンド、上海発、12月22日(pp.1, 15)
- 「フランスは極東の地位を維持—権利を守るが戦争は避ける—西洋の威信運動に参加する用意」:P.J.フィリップ、パリ発、12月21日(p.13)
- 「白人支配の終焉を見る—スヴェン・ヘディンは日本が間もなく東洋を支配すると言う」:ストックホルム発、12月21日(p.13)
日本の中国侵略と世界を揺るがしたジンギスカンとティムールの征服を比較して、スウェーデンの有名な探検家スヴェン・ヘディン(Sven Hedin: 1865-1952)は昨夜こう言った。「極東の白人種の統治はまもなく確実に終わる」。中央アジアの権威であるヘディン博士はスウェーデン王立アカデミーの講演で、最近の出来事は「警告だけでなく、白人の重荷[white man’s burden: 植民地を支配する白人の責任]がやる気のある日本にすぐに取って代わられるという最終信号だ。これがヨーロッパにとってどんな結果をもたらすか誰にも予想できない。世界全体が戦争精神異常の影響下にある。行き着く先は人類を目隠しのまま地獄に向かわせるようだ」と述べた。
- 「上海は日本の動向に不安—過激派は中立国に対する敵意から問題を起こすと予想される—パナイ号審査は終了間近—海軍の船とその他のアメリカ船3隻の中国人生存者が病院に到着」:上海発、12月22日(p.15, 「東京部隊は無罪放免、原田熊吉少将」というキャプションで、原田少将の写真掲載)
上海の中立国の高官は日本政府と揚子江地域の日本陸軍の過激派が優勢になったと信じている。中国に対して更なる懲罰的措置が必要だという東京の宣言は上海-南京地域の陸軍司令官である松井石根大将の中国を和平交渉に誘おうとする努力とは奇妙に矛盾する。中立国の旗と資産に対する侮辱の後の日本の態度のせいで不安が増している。悔い改めなしの謝罪、適切な保証なしの謝罪は急速に愚弄になっている。正式の昔ながらの国際間のエチケットは馬鹿げたものにされ、風刺漫画家の題材にされている。
パナイ号と蕪湖事件、英国砲艦レディーバード号の砲撃の責任を転嫁しようとする橋本欣五郎大佐、南京獲得後の権限の分裂、規律の崩壊などは命令をどの軍が実行するのか、どの軍が混乱を起こしているのか見極めることを難しくしている。
「上海に秘密が指令された」
パナイ号砲撃と英国砲艦への攻撃の影響が広がることに驚いて、日本当局は上海の公式報道官にこれらの事件について話すことを禁じた。今朝、パナイ号と蕪湖攻撃に関するニュース全ては今後東京からのみ発せられると発表された。これらの事件に関する調査は上海の松井大将の司令部で行われるのに、全報告書は極秘として東京に送られる。
橋本大佐、または陸軍の上級将校がこれらの事件の処罰として東京に召喚されたか、または日本海軍が三竝貞三少将を解任したようなことを陸軍もするのかという質問に、陸軍報道官は全く知らされていないと言った。12月12日の嘆かわしい出来事の責任が橋本大佐に決定されたのか質問すると、報道官は「そうだとも、そうじゃないとも私は言える立場にない」と言った。
現在、橋本大佐を放免させるために、彼は大将に南京に最終攻撃を命じられ、命令に従っただけだと発表するのだろう。もしこの政治的戦略が採用されたら、多分この大将は最終的な勝利の攻撃の栄光と軍事的名誉を剥奪されることを意味するが、それはまたその後の大量処刑、略奪、強姦に対する世間の非難から守られることになるだろう。
筆者は今朝、日本の公式報道官の一団に橋本大佐が12月12日と13日に南京全体の司令部からの命令で動いたのか、それとも、蕪湖地域で独立の命令を発する権限を持って彼独自の決定をしたのか質問した。答えは大将の名前は発表できないし、橋本大佐の権限がどの程度かも明かすことはできないというものだった。
12月12日に太湖を基地にしていた飛行機がパナイ号を爆撃したのか、その飛行機が橋本大佐の命令で飛んだのか、または海軍が南京と蕪湖の間の揚子江上の船全てを無差別爆撃するよう命じたのかという質問に、報道官は「陸軍が海軍に、南京から多くの中国船が逃げたと伝え、それを爆撃するよう依頼した。海軍が命令を出し、この依頼を実行するよう命じた」と答えた。(中略)
驚くほどの独創性のなさで、日本が立ち上げた北平の暫定政府は満州国によって大昔に陳腐にされた方法と無用の言葉を散りばめた言語を使っている。北平レジームは「日本政府に新国家が産業、財政、文化、外交問題に対処するために日本人アドバイザーを推薦するよう熱心に依頼している」(原文強調)。この必然の成り行きとともに来たのは、新たな東京の報道で、東京は北平レジームを正式に承認するという。これは中国政府を和平交渉に強制させるための脅しだと信じられている一方で、ここ上海ではもし和平が遅れれば、日本はこの脅しを実行すると認識されている。
- 「合衆国は中国に感謝」:AP, 漢口発、12月21日(p.15)
合衆国大使ネルソン・T.ジョンソンは国務省を代表して、中国政府に日本によるパナイ号爆撃の生存者を救助してくれたことを感謝した。
注
注1 | The New York Times, December 21, 1937. https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1937/12/21/issue.html |
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注2 | The New York Times, December 22, 1937. https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1937/12/22/issue.html |