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2020-04-07

英米に伝えられた攘夷の日本(6-7-4-2)

日本軍が1937年に揚子江上のアメリカ砲艦パナイ号を撃沈し、商船複数隻とイギリス軍艦レディーバード号を砲爆した「事件」がいかに大きな衝撃を米英にもたらしたかを『ニューヨーク・タイムズ』の記事から紹介します。

 日本軍の南京占領とこれらの「事件」が並列で報道されているので、日本軍による揚子江上の米英軍艦や商船の爆撃が日本軍の南京攻撃の一環だったことが読み取れます。並べられている順番に見出しを訳し、重要と思われる内容は抄訳します。

『ニューヨーク・タイムズ』のパナイ号事件報道1日目:1937年12月13日

第1面(注1)

  • 合衆国砲艦、日本軍に撃沈される;死者1人、負傷者15人、54人救助、18人行方不明;英国軍艦爆撃される、船員死亡。
  • 南京包囲される—日本は部隊が突入しているので南京陥落すぐと予想—重要門が占領される—陸空攻撃に参加するため海軍は今日到着予定。

小見出し:「中国人は勇敢さを示した」

  • 中国軍の兵卒たちはまたもや、普通ならどんな兵士でも挫けるような恐ろしい罰や状況に耐えて固守する驚くべき能力を発揮した。ほとんどが無給で食事も支給されず、負傷しても治療も何もないにもかかわらず、門の周辺で日本軍にひどい代償を払わせた。
  • 1900年[北清事変]のように、死体の山が7,000を超えるまで天津城壁を守った。1928年にも山東省済南で日本の進出に抵抗した中国兵は同じように勇敢に戦った[済南事件]。
  • [南京では] 一時間おきに空爆があったが、中国人は自殺的戦いを続けた。
  • 旧条約はアメリカの巡視を許可;船は攻撃的任務にはなかった—条約によって揚子江上の[アメリカ]国民は守られている。
  • 日本、責任認める—将校はパナイ号攻撃を遺憾と認める—イギリス船もターゲット—2隻は砲撃対象にされた時に飛行機を砲撃—スタンダード石油会社の2隻も同時に沈没した。

小見出し:「英国砲艦も砲撃される」「他の船は救助に急行」

第13面

  • アメリカの対日本輸出は1937年に65%増加:アメリカからの輸入の急激な増加の理由は1937年前半期の生綿の大量購入。

第14面

  • 負傷した司令官はニューヨーク出身—揚子江巡視に1年以上携わったヒューズとアンダースも負傷—大使館員4人も乗船—2等書記官アチソンとパクストンは極東の専門家

小見出し:「大使館員は[南京から]避難中

  • 合衆国砲艦が中国で撃沈、生存者の数人(撃沈前のパナイ号と生存者の写真掲載)
  • 合衆国砲艦が日本に撃沈される

小見出し:「ニュースがワシントンで報告される」「アチソン[書記官]からのメッセージ」「日本は外国船に警告」「他の砲艦2隻も砲撃された」

上海の日本陸軍本部は大きな不安を見せ、日本人記者や通信社がこの攻撃について東京に電報を打つことを禁じた(訳者強調)。

  • 広田が爆撃について合衆国に謝罪—日本の外務大臣が遺憾の意を表明するため大使館訪問—日本ではパナイ号ニュースなし
     パナイ号事件のニュースは日本で禁止されている(訳者強調)。

第15面

  • 南京は強力な軍に入市される(「揚子江戦争地帯」の地図掲載)

小見出し:「日本側の死傷者多数」「負傷した日本の記者死亡」

  • 金曜日[12月10日]に日本軍が南京の南門の狭い場所に突入しようとして中国軍の必死の抵抗にあい、6000人の死傷者が出たと、中国が主張した。日本の将校たちはこの場所では100ヤードしか進めなかったと認めた。
  • 中日戦争は今日、日本の新聞記者の6番目の犠牲者を出した。10月22日に上海戦で負傷した上海同盟通信のKenjiro Ashizawaが死んだ。東京朝日新聞の特派員、Shoshun Ohoは今日、南京近くで彼の自動車が地雷を踏み、重傷を負った。これ以前に2人の日本人特派員が殺されている。
  • 教会が中国に支援

第26面

  • 時の話題:「二人の兄弟」
     最近の『ヘラルド・トリビューン』の記事は松岡洋右(1880-1946)の「なぜ日本が宣戦布告なしの戦争を中国でしているのかの率直な説明」を嬉しそうに引用している。南満州鉄道総裁は日本の英語雑誌Herald of Asiaに書いている。中国は「赤い共産主義」(原文強調)がはびこっているというおきまりの非難をし、アメリカがインディアン[ネイティヴ・アメリカン]を征服し、メキシコを犠牲にして領土拡大したと嘲って帝国主義の目的をいつもの正当化に使った後、本題に入り、この戦争は死闘だと認めた。

     そして、彼の論を次のたとえ話で締めくくった。「中国と日本は東亜という巨大な邸を相続した兄弟である。逆境によって二人とも貧困の極みに落とされた。ろくでなしの兄は麻薬常用者、ならず者になったが、弟は痩せているが無骨で野望に満ち、この古い邸に過去の栄光を取り戻したいと夢見ている。***弟は怒り心頭で兄を叩きのめすが、その意図は恥の思いを叩きこみ、偉大な家の高貴な伝統の誇りを思い出させ、目覚めさせることだ。多くの諍いの後、弟はついに対決の大立ち回りの決意を下した。それが現在、北中国と上海前線で荒れ狂っている戦闘だ」。

    小見出し:「私は弟の番人なのか?」

     この論の欠陥は指摘しないが、このたとえ話はキリスト教徒の耳には聞き覚えのあることに気づく。昔、昔、二人の兄弟が西アジアと呼ばれる偉大な邸を相続した。逆境でこの兄弟も「過去の栄光」(原文強調)の伝統にもかかわらず、「貧困の極みに落とされた」(原文強調)。この場合は弟と喧嘩したのは兄で、「恥の思いを叩きこ」(原文強調)もうとした。この話は全て『創世記』の第4章に記されている。カインとアベルの物語である。

『ニューヨーク・タイムズ』のパナイ号事件報道2日目:1937年12月14日

第1面(注2)

  • 合衆国は日本から完全な賠償と今後攻撃しない確約を要求;海軍将官は中国船だと思った
  • 南京占領、日本が報道—激しい終日の戦闘の後、日本は南京市の陥落を宣言—中国はその主張に異議—侵略者は中国の中心部まで押し入ると示唆—北平[北京]に新レジーム設立
  • 日本は心配している—英米を分断しようとする期待に対する打撃と認識—救助作業続く—イギリス砲艦がパナイ号と石油輸送船3隻の生存者の捜索:特派員ハレット・アベンド、上海発、12月14日

小見出し:「日本の自慢が引用される」「船は中国船だと思った」「91人死亡か行方不明」

*「日本の自慢が引用される」

 日本が揚子江上の中国砲艦全てを沈めてやったと自慢していたので、外国砲艦を攻撃する作戦は弁解の余地がないというのが合衆国海軍の態度だと理解されている。昨日の昼にアメリカ旗艦オーガスタ号上では最高の緊張状態だった。ヤーネル(Harry E. Yarnell: 1875-1959)大将が長谷川清(1883-1970)中将の公式訪問を待っていた。記者が後に日本側から非公式に聞いたところによると、長谷川中将はヤーネル大将に、パナイ号を砲撃したのは日本の飛行機だと率直に認め、彼は「完全な個人的責任を負う」と言ったそうだ。

 この言葉は多分地位を辞す意志がある、またはハラキリさえ意味するのかもしれない。外国軍とここの海軍で長い間気づいていたこと:日本陸軍と海軍の若い将校たちが完全に手におえなくなり、規律に逆らっていることだ。これが調査によって事実だと証明されたら長谷川中将が責任をとるということだろう。海軍少将本田忠雄(1888-1946)は今日インタビューの中で、パナイ号爆撃の後、飛行士たちに注意を払うよう命令したと認めた。

 過去に外国船や建物を空爆した責任飛行士は罰せられると約束されたにもかかわらず、その処罰の種類や当事者の名前や処罰されたかについてさえ、中立政府[米英]は知らない。

*「船は中国船だと思った」

 昨日の昼に発表された長谷川中将の本部による声明は以下のように言った。「中国兵が南京から蒸気船で逃げるという情報を得て、日本海軍の航空隊が12月11日(土曜)夜、船を追跡し爆撃した。3隻のスタンダード石油会社の船を中国船と間違えて、爆撃した。この作戦中に最も残念な事件が起こり、これらの船のそばにいたアメリカ砲艦が沈没した。これは心から遺憾に思う事件である。長谷川中将は全責任を負うために、直ちにあらゆる適切な措置をとる」。

*「91人死亡か行方不明」

 パナイ号乗船中のアメリカ人商店主とイタリア人ジャーナリストが殺された。

  • 大統領のパナイ号に関するメモランダム(大統領署名入り文書の写真掲載)
  • 砲艦の攻撃はイギリスを怒らせた—東京で「強い」抗議が表明された—イギリスは自国海軍もアメリカ海軍も極東で効果的に行動できなかったと悟った:ロンドン発 12月13日
  • アメリカ下院の意見は激しく分裂—ある議員は部隊と戦艦の召還を、他は強硬な方針を要求—爆撃は外国人を怖がらせる企てとピットマン:ワシントン発、12月13日

小見出し:「日本との貿易を攻撃」

  • 天皇へ申し立て—ルーズベルトは彼の危機感を裕仁に言うよう要請—行動の指示なし—揚子江攻撃が合衆国と英国を緊密な結束に向かわせた

小見出し:「ハル[国務長官]への指示」「下院で討論沸騰」

第16面

  • ワシントンは東京に改善を求めた

小見出し:「ロンドンと見解の交換」「広田の謝罪を報告」

 この状況は1898年、ハバナ港のアメリカ戦艦メイン号の沈没を思い出させる。しかし、重要な違いは日本がすぐに全面的責任を認めたのに対しスペインは拒否したこと、アメリカ世論は今激怒していないのに対し、1898年は激怒していたことである。

 グルー大使は広田(弘毅:1878-1948)氏の謝罪を報告し広田外務大臣が大使館に来て、日本海軍当局がパナイ号事件の全責任を負うと述べた。[在アメリカ日本大使館]日本海軍と陸軍の武官が今日午後[アメリカ]海軍省と陸軍省を訪問し、遺憾の意と謝罪を表明した。

  • パナイ号事件に関して大統領と話し合いに行く[ハル長官](ホワイトハウスに向かう写真)
  • パナイ号声明文
    グルー大使は広田氏の謝罪を報告し、広田外務大臣が大使館に来て、日本海軍当局がパナイ事件の全責任を負うと述べた。[在アメリカ日本大使館の]日本海軍と陸軍の武官が今日の午後[アメリカ]海軍省と陸軍省を訪問し、遺憾の意と謝罪を表明した。

小見出し:「ハルと斎藤の話し合い」[18面にハル長官の部屋の前で待っている斎藤博(1886-1939)駐米大使の写真掲載]、「日曜[12日]夜のメッセージ」「グルーからのメッセージ」

第17面

  • 戦艦の爆撃は意図的だったと救助された者たちが主張—合衆国の船には甲板の天幕に旗が描かれ、全マストにも旗が揚げられていた—4回攻撃された(AP, 漢口, 12月13日)
    英国軍艦ビー号に救助された者たちが昨日のパナイ号空爆の証人として、これは間違いなく誤爆ではなく、意図的だったと今夜主張した(訳者強調)。アメリカ国旗が揚げられていた軍艦を日本の飛行機戦隊が日曜の午後1:35に続けて4回空爆した。

第18面

  • 下院リーダーたちは「ジンゴイズム」[Jingoism:愛国主義、主戦論]と非難—もし行動が取られなければならないなら、パナイ号撃沈に関する全ての事実を把握しなければならないと警告—厳格な中立が求められた—ピットマンは処罰を要求—他の議員たちは合衆国が「中国から撤退すべき」と言う

小見出し:「本当に『遺憾』とボーラ」「[米中]条約違反を主張」「[アメリカ]砲艦の撤退を望む」「ヒステリーを避ける」

  • 南京占領と日本が報道
     日本陸軍スポークスマンは日本世論の圧倒的な声は戦闘の継続を望み(訳者強調)、基本的な解決を望んでいると言った。

小見出し:「侵略を続けると示唆」「Kianyin砦で多くの戦利品」「南京市炎上と報道」「避難民[英米ミッショナリー]が香港到着」

  • 陶磁器工が反日ボイコット

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